法律コラム

2026年10月9日

租税条約とクロスボーダー契約:国際取引で必須の税務知識

海外企業とのライセンス、業務委託、販売、融資、投資等の契約では、契約金額だけでなく「どの国で、誰に、どの種類の所得として課税されるか」を契約締結前に確認する必要があります。租税条約は二重課税の排除や源泉地国の課税権の調整に重要な役割を持ちますが、条約があるだけで自動的に軽減税率や免税が適用されるわけではありません。

実務では、①日本の国内法上の課税関係、②相手国との個別の租税条約、③改正議定書やBEPS防止措置実施条約(MLI)による修正、④条約特典を受けるための届出・居住者証明等の手続、⑤契約上の税負担配分を順番に確認します。契約書は税法上の結論を作るものではありませんが、源泉税、Gross-up、税務書類の協力、PEを生じさせない業務設計等を明確にすることで、想定外の手取り減少や紛争を減らすことができます。

最初に押さえるポイント

租税条約は「相手国と条約があるか」だけを見ても足りません。同じ配当・利子・使用料でも条約ごとに税率・要件が異なり、特典条項、居住者証明、MLIによるPPT(主要目的テスト)等が関係することがあります。また、PEの有無は契約書に「PEを構成しない」と書くだけで決まらず、実際の拠点・人員・権限・活動内容を基礎に判断されます。以下は2026年9月時点の制度・公表資料を前提に整理します。

1 租税条約は何を調整するものか

租税条約は、同じ所得について複数国が課税することで生じる二重課税を調整し、あわせて脱税・租税回避の防止や税務当局間の協力を図るための国際的なルールです。日本では、租税条約等実施特例法が、租税条約等を実施するための所得税法・法人税法等の特例その他必要な事項を定めています。

財務省によれば、2026年9月1日現在、日本の租税条約等のネットワークは91条約等・157か国・地域に適用され、そのうち二重課税の除去や脱税・租税回避の防止を主な内容とする租税条約は78本、81か国・地域を対象としています。ただし、国・地域ごとに条約の条文、改正議定書、適用開始時期が異なるため、ネットワークに含まれていることだけで具体的な税率や免税要件を判断することはできません。

条約でよく問題になる論点 契約実務との接点
居住者の判定 どの国の条約上の居住者として特典を請求できるかを確認する
事業所得・PE 相手国で事業所得課税が生じるか、現地活動がPEを構成しないかを確認する
配当・利子・使用料 源泉地国での課税上限・免税要件と、契約上の源泉税負担を確認する
譲渡所得 株式・不動産関連株式等の売却時にどの国が課税できるかを確認する
特典制限・PPT 条約特典を受ける主体・取引目的が要件を満たすかを確認する
相互協議(MAP) 条約に適合しない課税や国際的二重課税が生じた場合の解決手段を確認する

2 クロスボーダー支払は「所得の種類」を先に分類する

契約書に「サービス料」「ライセンス料」「紹介料」等と書けば、その名称どおりの税務処理になるとは限りません。国内法と租税条約は、支払の実質が事業所得、使用料、利子、配当、人的役務の対価等のどれに当たるかを前提に課税関係を定めています。

したがって、税率を調べる前に、契約上の給付内容、知的財産の利用権、ノウハウ提供の有無、役務提供地、貸付関係、株式保有関係等から所得分類を整理します。特にソフトウェア、クラウド、データ、技術支援、複合サービスでは、契約全体を一括して一つの名称で処理せず、必要に応じて対価を構成要素ごとに確認します。

取引類型 主に確認する税務論点 契約で明確にしたい事項
業務委託・サービス 事業所得、国内源泉所得、PE、役務提供地、源泉徴収 業務内容、実施場所、人員派遣、代理権、費用負担
知財ライセンス 使用料該当性、条約税率、源泉税、移転価格 対象権利、利用範囲、対価の算定、税負担、証明書協力
グループ内・第三者融資 利子、条約税率、源泉税、移転価格・利子規制 元本、利率、通貨、支払日、税負担、届出協力
配当・投資 配当条項、持株要件、保有期間、特典条項等 受取主体、持株関係、条約書類、税負担の前提
販売・代理店 事業所得、代理人PE、移転価格、関税・間接税 契約締結権限、在庫・価格決定、販売地域、独立性

3 租税条約の軽減・免除は自動適用ではない

日本から非居住者・外国法人へ国内源泉所得を支払う場合、国内法上の源泉徴収が問題となります。相手国との租税条約により税率が軽減又は免除される場合でも、国税庁は、原則として租税条約に関する届出書を最初の支払日の前日までに、支払者を経由して所轄税務署長へ提出する手続を案内しています。

期限までに必要な届出がされていない場合、支払者は原則として国内法の税率で源泉徴収し、後日、届出書と還付請求書を提出して差額の還付を求める仕組みがあります。したがって、契約で条約税率を前提にネット支払額を確定していても、必要書類が支払日までに揃わなければ、資金決済が契約想定どおりにならないことがあります。

実務フロー 確認内容
1 支払内容の分類 国内法上、誰へのどの種類の国内源泉所得に当たるかを確認する
2 条約確認 相手国との条約本文・議定書・MLIの適用関係を確認する
3 受取人の資格確認 居住者性、特典条項、必要に応じ実質的受益者等の条約要件を確認する
4 書類準備 所得類型に対応する届出書、付表、居住者証明等を準備する
5 支払前確認 提出時期、源泉税率、Gross-upの有無、送金額を確定する
6 変更管理 受取人・持株関係・居住地等に変更があれば届出の更新要否を確認する

4 特典条項・居住者証明・PPTまで確認する

租税条約の適用は、「相手会社が条約締結国に登記されている」という事実だけで決まるとは限りません。国税庁は、特典条項を有する租税条約について、条約の軽減・免除を受ける場合に、届出書のほか「特典条項に関する付表(様式17)」や居住者証明書が必要となる場合を案内しています。

さらに、BEPS防止措置実施条約(MLI)は、対象となる既存の租税条約に租税条約の濫用防止等の措置を導入します。日本は、取引の主たる目的に基づいて条約特典を否認するPPTに関する規定等を選択しており、対象条約・相手国の選択・適用開始時期によって実際の修正内容が異なります。

「条約があるから使える」ではなく、受取人ごとに資格確認する

持株会社や支払受領会社を特定国に置けば当然に軽減税率を使えるという考え方は危険です。条約本文上の居住者要件、特典条項、受取人に関する要件、MLIによるPPT等を確認し、契約当事者と実際の所得受領者・事業主体が一致しているかを確認します。

5 MLIの適用がある条約は原条約だけを読まない

MLIは、締約国が対象として選択した既存の租税条約を一括して修正する仕組みです。財務省によれば、日本についてMLIは2019年1月1日に発効し、日本は43か国・地域との租税条約を適用対象として選択しています。相手国側の批准・選択状況により、実際にMLIが適用される条約や適用開始時期は異なります。

財務省は各条約について、原条約とMLIの適用関係を把握しやすくするための「統合条文」を公表していますが、統合条文自体には法的効力がない旨を明示しています。実務では統合条文を入口として利用しつつ、重要な取引では原条約、改正議定書、MLIの条文と両国の留保・通告を確認します。

確認資料 役割
原租税条約 基本的な課税権配分、PE、配当・利子・使用料等の条文を確認する
改正議定書 税率・定義・特典条項等が後から変更されていないか確認する
MLI適用関係 PPT、PE、人為的回避、MAP等について修正が入っていないか確認する
統合条文 適用関係を読みやすく把握するための便宜資料として利用する
国内手続資料 届出書、居住者証明、付表等の提出要件・期限を確認する

6 PEは契約条項だけでは防げない

恒久的施設(PE)は、外国企業等の事業所得に対する源泉地国課税の重要な基準です。国税庁は、国内法上のPEについて、一定の事業拠点、一定の長期建設工事、一定の代理人等を含む枠組みを示し、租税条約に国内法と異なるPEの定めがある場合には、その条約上のPEを国内法上のPEとして扱うことを説明しています。

したがって、契約書に「本契約は相手方のPEを構成しない」「代理店は独立した事業者である」と書いても、実際に相手国で固定的な拠点を使用し、その拠点で行う活動が事業全体の本質的・重要な部分を担っていたり、担当者が継続的に契約締結等へ重要な役割を果たしたりするなどの事情があれば、契約文言だけでPEリスクを排除することはできません。MLIが適用される条約では、代理人PEや特定活動の除外に関する規定が修正される場合もあります。

PEリスクを確認したい事実 契約・運用での確認
オフィス・設備・コワーキング等の利用 誰が場所を確保し、どの程度継続的に利用・支配しているか
現地従業員・駐在員 滞在期間、職務、意思決定、営業・契約への関与を確認する
販売代理店・コミッショネア 契約締結権限だけでなく、契約成立に果たす実際の役割を確認する
建設・据付・プロジェクト 条約ごとの期間基準や関連プロジェクトの取扱いを確認する
補助的・準備的活動 形式的な業務名ではなく、事業全体における実際の重要性を確認する

弊所の実務上の視点

PE条項は「PEを作らない魔法の文言」ではありません。契約上の権限設計と、実際の営業・契約承認・現地拠点の使い方を一致させることが重要です。税務担当だけでなく、営業部門が相手国でどのように商談・契約締結を進めるかまで確認しないと、契約書と実態が乖離します。

参考裁判例:東京高裁平成28年1月28日判決

東京高裁平成28年1月28日判決(平成27年(行コ)第222号)は、米国から自動車用品を輸入し、インターネットを通じて日本国内の顧客に販売していた非居住者について、日本国内のアパート及び倉庫が日米租税条約上の恒久的施設(PE)に当たるかが争われた事案です。ホームページ等にはアパートの住所・電話番号が事業の所在地・連絡先として表示され、アパート・倉庫では商品の受取り・保管、梱包・発送、返品の受取り・代替品の発送等が行われていました。

裁判所は、日米租税条約5条4項各号によるPE除外の判断では、その場所での活動が「準備的又は補助的な性格」にとどまるかを検討すべきであり、その判断に当たっては、当該場所での活動が企業全体の活動の本質的かつ重要な部分を形成するかが重要であるとしました。その上で、本件アパートは顧客が事業主体の所在地として認識できる唯一の場所であり、倉庫と一体となって商品の受取り、保管、梱包、発送、返品対応等を担っていたことなどから、国内拠点の活動は本質的かつ重要で、準備的・補助的な活動にはとどまらないとしてPE該当性を認めました。

この判決からは、受注確認や発送指示等の一部の業務を国外で行っている場合でも、国内拠点が事業全体で果たす機能を個別に確認する必要があることが分かります。もっとも、本判決は当時の日米租税条約と具体的事実関係に基づく判断であり、現在の取引では、対象国との条約本文、改正議定書、MLIの適用関係を確認した上で、同種の拠点がPEに当たるかを判断する必要があります。

7 国際契約の税務条項は「税率を書く」よりリスク配分を決める

契約書に特定の源泉税率だけを書き込むと、条約改正、受取人の資格変更、必要書類の未提出等により前提が崩れたときに紛争になりやすくなります。法令上の源泉徴収義務そのものは、当事者間の合意で消すことはできません。契約では、必要な源泉徴収を行えること、控除後の支払を債務不履行としないこと、どの条件でGross-upを行うか、条約適用に必要な書類を誰がいつ提出するかなど、税務上の結論を前提に当事者間の経済的負担と手続を設計することが重要です。

条項・事項 実務上のポイント
源泉徴収 法令上必要な源泉徴収を行えること、控除後の支払を債務不履行としないことを整理する
Gross-up 源泉税分を上乗せするか、対象税、上限、除外、条約適用努力との関係を定める
条約書類の協力 居住者証明、届出書、特典条項付表等を期限までに提供する義務を定める
受取人の表明 居住者性・条約特典の資格等について必要な範囲で表明し、変更通知義務を定める
税務変更 条約・税法変更で手取り又はコストが大きく変わる場合の再協議・解除等を検討する
税務調査・MAP協力 証憑提供、当局照会、還付・相互協議等への合理的な協力を定める

Gross-upを定める場合も、受取人が条約適用に必要な書類を提出しなかったため国内法税率で源泉徴収することになった場合まで、支払者が無条件に追加負担するのかは検討が必要です。受取人の協力義務違反、税務上の地位の変更、法令改正等を分けて規定すると、負担の所在を明確にできます。

参考裁判例:東京地裁令和2年6月19日判決

東京地裁令和2年6月19日判決(令和元年(ワ)第25951号)は、日本企業が、東京支店を有する米国法人にシステム開発支援業務を委託し、源泉徴収をせずに報酬を支払った後、税務署から納税告知を受けて源泉所得税等を納付し、その税額相当額を米国法人に請求した事案です。本件契約には源泉徴収に関する定めがなく、業務はシステムエンジニアを日本企業の事務所に常駐させるなどして行われ、報酬は各業務従事者の単価と工数に応じて算定されていました。

裁判所は、人的役務提供事業への該当性は、外国法人の登記上の事業目的ではなく、国内における人的役務の提供に関する契約ごとに判断すべきであるとし、本件報酬を国内源泉所得に当たる人的役務提供事業対価と認定しました。また、日米租税条約7条は両国間の課税権を配分する規定であり、日本に課税権がある所得をどの方法で課税するかは国内法によるとして、日本企業の源泉徴収義務を認めました。

さらに、契約書に源泉徴収の記載がなかったことから「源泉徴収をしない旨の黙示の合意」があったとの主張についても、源泉徴収の要否は当事者間の合意ではなく法令によって決まるとして退け、支払者から受取人への源泉所得税等相当額の請求を認めました。この事例は、法令上の源泉徴収義務と、当事者間で税の経済的負担をどのように配分するかを分けて考える必要性を示しています。契約では、源泉徴収の実施、控除後支払の扱い、Gross-up、条約手続への協力、後日税額が発生した場合の精算方法等を明確にしておくことが重要です。

8 サービス契約ではPE・源泉税・役務提供地をセットで確認する

海外企業へのコンサルティング、開発、保守、マーケティング等の委託では、「サービス料だから源泉税はない」「オンラインだからPEはない」と一律には判断できません。国内法上の国内源泉所得の範囲と、相手国との条約で事業所得・人的役務等がどのように扱われるかを確認します。

また、日本企業が海外で役務提供する場合も、現地出張者・常駐者の人数や滞在期間、利用拠点、代理権、契約締結プロセスによって現地PEや現地源泉課税の問題が生じる可能性があります。営業・プロジェクト部門が税務部門へ事前に出張・配置計画を共有する運用が重要です。

契約で確認する事項 税務上確認する事項
業務の具体的内容・成果物 単なる役務か、知財・ノウハウの使用許諾を含むか
役務提供場所 どの国で誰が業務を行うか、現地拠点を利用するか
担当者の滞在・配置 PEや現地給与課税等の確認が必要となる期間・役割か
契約締結・価格決定権限 現地担当者・代理店がどの程度契約成立に関与するか
再委託・関連会社利用 実際の役務提供主体と契約当事者が一致しているか

9 ライセンス・融資・配当は「条約税率」だけを見ない

使用料、利子、配当は租税条約による源泉地国課税の軽減が実務上重要ですが、条約ごとに税率と適用要件が異なります。持株割合や保有期間、受取人の属性、特典条項等が条件になる場合があるため、税率表だけを抜き出して契約へ貼り付けるのは危険です。

ライセンスでは、対価が本当に条約上の「使用料」に当たるかも確認します。ソフトウェア、ノウハウ、クラウドサービス、技術支援等が組み合わさる契約では、権利使用の対価とサービス対価を区分する必要が生じることがあります。融資では条約税率に加え、独立企業間利率、過少資本・過大支払利子等の国内法も別途検討します。

条約と他の国際税務ルールを混同しない

租税条約上の軽減税率を利用できることと、移転価格上の対価が妥当であること、CFC税制の合算対象にならないこと、消費税・VATや関税の負担がないことは別問題です。クロスボーダー契約では「条約で税務は解決した」と考えず、税目・制度ごとに確認します。

10 租税条約は消費税・VAT・関税を一括して解決するものではない

所得に対する租税の二重課税を調整する租税条約と、消費税・VAT、関税等の間接税・国境税は制度が異なります。例えば、クロスボーダーのデジタルサービス、物品販売、輸入取引では、租税条約上の源泉税とは別に、日本又は相手国の消費税・VAT登録、リバースチャージ、関税・輸入者の負担等を検討する必要があります。

契約書では「Taxes」の定義を広くしすぎると、源泉所得税とVAT・関税の負担者が曖昧になります。源泉税、売上税・VAT、関税、銀行手数料等を必要に応じて分けて負担関係を定める方が、請求・支払実務と一致しやすくなります。

11 二重課税が生じた場合は外国税額控除・相互協議等を検討する

租税条約があっても、相手国税務当局の課税や移転価格調整等により国際的な二重課税が生じることがあります。国内法上の外国税額控除が利用できる場面があるほか、租税条約の規定に適合しない課税については、条約に基づく相互協議(MAP)によって両国の税務当局間で解決を図る制度があります。

国税庁は、相互協議について、租税条約に適合しない課税の排除等を目的に税務当局間で協議する手続と説明しています。申立ての期間制限は条約によって異なる場合があるため、課税処分や相手国当局からの調整通知を受けたら、国内の不服申立て・訴訟との関係も含め早期に専門家へ確認します。

問題 検討する主な対応
条約届出を期限までに出せなかった 国内法税率で源泉徴収後、所定の届出・還付請求を検討する
相手国でも同じ所得に課税された 外国税額控除その他国内法上の二重課税調整を確認する
条約に適合しない課税が生じた 相互協議(MAP)の申立て要件・期限・必要資料を確認する
移転価格調整で二重課税が生じた MAP・対応的調整、必要に応じAPA等を検討する

12 契約締結前の税務確認フロー

段階 確認すること
1 取引構造 契約当事者、実際の役務・権利・資金の流れ、支払国・受取国を図示する
2 国内法 各支払について国内源泉所得・源泉徴収・法人税等の基本関係を確認する
3 個別条約 居住者、PE、所得条項、税率・免税、MAP等を確認する
4 改正・MLI 改正議定書、MLI、PPT・PE修正等の適用関係を確認する
5 手続 届出書、居住者証明、特典条項付表等を支払前に準備する
6 契約条項 源泉徴収、Gross-up、税務書類協力、変更通知、税制変更等を規定する
7 運用 支払・出張・代理権・現地拠点等が契約前提とずれていないか継続確認する

13 よくある契約・運用ミス

ミス 問題点 改善策
条約があるので自動的に軽減税率で支払う 届出・居住者証明・特典条項等の要件を欠く可能性がある 支払日前に条約適用資格と必要書類を確認する
「PEを構成しない」とだけ契約に書く 税務上は実際の拠点・人員・権限・活動が重視される 契約上の権限と現地運用を一致させる
条約本文だけを読む 議定書・MLIにより条文の適用関係が修正されている場合がある 財務省の適用関係を確認し、必要に応じ原条約・MLIを照合する
Gross-upを無条件に約束する 受取人の書類不備まで支払者負担になる可能性がある 協力義務、除外事由、税制変更を分けて設計する
サービス料・使用料の名称だけで所得区分を決める 実質と異なる区分で源泉税・条約適用を誤る 給付内容と権利利用を分解して分類する
税率だけ確認して間接税を見ない VAT・消費税・関税の追加コストを見落とす 所得課税と間接税・関税を別々に確認する

14 租税条約・クロスボーダー契約チェックリスト

  • 契約当事者と実際の所得受領者・役務提供者を確認した
  • 支払ごとに事業所得、使用料、利子、配当等の所得区分を確認した
  • 日本の国内法上の源泉徴収・国内源泉所得を確認した
  • 相手国との租税条約と最新の改正議定書を確認した
  • MLIの対象条約か、PPT・PE等の修正が適用されるか確認した
  • 受取人の居住者性・特典条項その他条約特典の資格を確認した
  • 必要な届出書、付表、居住者証明等を支払日前に準備した
  • 源泉徴収とGross-upの負担者・除外事由を契約で定めた
  • 条約適用に必要な書類の提供・更新・変更通知義務を定めた
  • PEリスクを契約文言だけでなく拠点・人員・代理権・出張実態から確認した
  • サービス、ライセンス、融資等の契約と移転価格上の前提が整合している
  • VAT・消費税・関税等を租税条約とは別に確認した
  • 二重課税時の外国税額控除・MAP等の対応可能性を確認した
  • 税法・条約改正や当事者の居住地変更時に再確認する担当者を決めた

15 FAQ

Q. 租税条約があれば、国内法の源泉税より必ず低い税率になりますか?

A. いいえ。条約ごとに対象所得・税率・要件が異なり、国内法と同じ取扱いとなる場合もあります。まず国内法上の課税関係を確認した上で、対象条約の具体的な条文・要件を確認します。

Q. 租税条約の軽減税率は自動的に適用されますか?

A. 日本で源泉徴収の軽減・免除を受ける典型的な場面では、原則として所定の「租税条約に関する届出書」を最初の支払日の前日までに支払者を経由して提出します。特典条項がある条約では付表や居住者証明書等が必要となる場合があります。

Q. 届出書を出し忘れたら条約特典は受けられませんか?

A. 支払時には国内法税率で源泉徴収することになりますが、国税庁は、後日、届出書と還付請求書を提出して条約適用後の税額との差額の還付を求める手続を案内しています。

Q. 契約書に「PEを構成しない」と書けばPEは発生しませんか?

A. いいえ。PEは実際の拠点、工事、代理人の権限・活動等を踏まえて判断されます。契約上の権限設計は重要ですが、実際の運用と一致していなければ契約文言だけでPE該当性を否定することはできません。

Q. MLIはすべての日本の租税条約を自動的に変更しますか?

A. いいえ。両国が対象として選択し、所定の発効・適用要件を満たす条約について、両国の留保・通告に応じた規定が適用されます。相手国ごとに適用関係を確認する必要があります。

Q. 契約に「租税条約を優先する」と書けば税務処理は決まりますか?

A. 決まりません。課税関係は法令・条約・事実関係によって決まり、私人間契約だけで税務当局を拘束することはできません。契約では、法令上生じる税負担を当事者間でどう配分するかを定めます。

Q. Gross-up条項は必ず入れた方がよいですか?

A. 一律ではありません。交渉力、価格設定、源泉税率、条約手続の負担、受取人の協力義務等を踏まえて決めます。入れる場合は、どの税を対象とし、受取人の書類不備や税務上の地位変更をどう扱うかまで明確にします。

Q. 租税条約があればVATや関税も軽減されますか?

A. 一般に、所得に対する租税の租税条約と、VAT・消費税・関税は別制度です。物品・デジタルサービス等の契約では、源泉税と間接税・関税を別々に確認します。

Q. 二重課税になったらどう対応しますか?

A. 国内法上の外国税額控除等を確認するとともに、租税条約に適合しない課税については相互協議(MAP)が利用できる場合があります。申立期間等は条約ごとに確認する必要があります。

16 弁護士・税理士へ早めに相談したい場面

  • 海外企業とのサービス・ライセンス・融資契約で源泉税の負担者を決める
  • 相手方からGross-upや税引後の手取額保証を求められている
  • 現地駐在員・出張者・代理店の活動によりPEが生じる可能性がある
  • 持株会社・SPV等を介した支払で条約特典の資格に不安がある
  • MLIの適用によりPPT・PE等の条文が修正されている可能性がある
  • ソフトウェア、SaaS、ノウハウ等の対価が使用料かサービス料か判断しにくい
  • 条約届出・居住者証明等が支払日までに揃わない
  • 海外税務当局の課税により二重課税が発生し、MAP等を検討する必要がある

クロスボーダー契約では、税務条項だけを契約締結直前に確認すると、取引構造自体を変更できないことがあります。特にPE、支払主体、IP保有主体、融資主体、条約特典の資格は、契約当事者を決める段階から法務・税務を同じ前提で確認することが重要です。

まとめ 租税条約は「税率表」ではなく、取引構造・手続・契約運用まで含めて使う

租税条約は国際取引の二重課税を調整する重要な仕組みですが、「条約がある」「相手国の税率は○%」という確認だけでは不十分です。支払の所得分類、受取人の居住者性・特典資格、PE、改正議定書・MLI、届出書・居住者証明等の手続を取引ごとに確認する必要があります。

契約実務では、法令上の税務結論を契約文言で作ろうとするのではなく、源泉徴収、Gross-up、条約書類の提出、変更通知、税制変更、税務調査・相互協議への協力等について当事者間の役割と負担を明確にします。そして、契約上の権限や業務範囲を実際の拠点・人員・営業活動と一致させることが、PEや条約適用をめぐるリスク管理の基本です。

17 参考裁判例

東京高裁平成28年1月28日判決(平成27年(行コ)第222号)

東京地裁令和2年6月19日判決(令和元年(ワ)第25951号)

18 主要な一次資料

財務省「租税条約に関する資料」

財務省「我が国の租税条約等の一覧」

財務省「BEPS防止措置実施条約に関する資料」

国税庁 No.2888「租税条約に関する届出書の提出(源泉徴収関係)」

国税庁 No.2889「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求」

国税庁 No.2883「恒久的施設(PE)」

国税庁 No.2884「非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率」

国税庁「相互協議」

租税条約等実施特例法 — e-Gov法令検索

国際取引・クロスボーダー契約に関するご相談

海外企業とのサービス、ライセンス、融資、販売等の契約では、租税条約、源泉徴収、PE、Gross-upその他の税務条件と契約上のリスク配分を一体で確認することが重要です。クロスボーダー契約の作成・レビューや、税理士等との連携が必要な案件についてご相談ください。

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