M&Aで問題になる「簿外債務」は、貸借対照表に載っていない債務だけを意味するものではありません。法務DDの実務では、未払賃金、係争化していないクレーム、保証・担保、税務・補助金リスク、土壌汚染や原状回復、契約違反に伴う違約金・解除リスクなど、クロージング後に金銭負担や事業価値の毀損につながり得る潜在的な負担を広く確認します。
特に株式譲渡では、買主が対象会社の債務を直接「承継する」のではなく、対象会社自体が従前の債務を負い続けます。その結果、買収後に簿外債務が顕在化すると、対象会社のキャッシュフローや企業価値を通じて買主が経済的な影響を受けます。したがって、法務DDでは「問題があるか」を探すだけでなく、発見したリスクを価格、クロージング条件、表明保証、特別補償、留保金等へどう反映するかまで設計することが重要です。
先に結論
簿外債務対応で重要なのは、次の4点です。
- M&Aのスキームごとに、どの債務・契約・労働関係が残るのか、承継されるのかを区別する
- 決算書だけでなく、契約書、労務データ、紛争履歴、保証・担保、税務・補助金、環境資料等を横断して確認する
- 「資料がない」「説明と証憑が合わない」「契約と実際の運用が違う」という状態自体をリスクシグナルとして扱う
- 発見したリスクを、価格調整、是正、前提条件、表明保証、特別補償、留保等の具体的な取引条件に変換する
1 簿外債務は「会計上の未計上債務」だけではない
M&A実務でいう簿外債務は、厳密な会計用語として限定的に捉えるよりも、買収後に対象会社へ金銭負担や事業継続上の不利益を生じさせる可能性がある未認識・未確定の負担を含めて確認する方が実務的です。
典型例は次のとおりです。
- 労務:未払残業代、固定残業代の設計不備、管理監督者性の問題、社会保険・労働保険の未処理
- 紛争:訴訟前のクレーム、内容証明、内部通報、返金要求、取引先との継続的なトラブル
- 金融:保証債務、担保提供、経営者保証、第三者の債務に関する連帯保証、財務制限条項違反
- 契約:最低購入義務、違約金、原状回復、チェンジ・オブ・コントロール条項、サイドレター
- 税務・公的支援:税務調査リスク、源泉・消費税等の処理、補助金・助成金の返還・適格性喪失
- 不動産・環境:土壌汚染、廃棄物、アスベスト、原状回復、用途・消防等の是正費用
- 知財・IT・データ:権利帰属の欠缺、第三者ライセンス違反、OSS利用条件、個人情報・セキュリティ事故への対応費用
これらは、金額が確定していないため引当てがされていない場合や、経営陣が問題として認識していない場合があります。法務DDでは、帳簿上の計上有無ではなく、「将来の支出・賠償・返還・是正・事業停止につながる原因が既に存在していないか」を確認します。
2 スキームによって「簿外債務の残り方」は変わる
2-1 株式譲渡
株式譲渡では、対象会社そのものは存続します。したがって、対象会社が負っている契約上・法令上の債務は、原則としてそのまま対象会社に残ります。未払賃金や保証債務、過去の法令違反に起因する負担が後から顕在化した場合も、まず対象会社の問題として現れます。
買主は債務者そのものになるわけではありませんが、買収後の対象会社の価値・資金繰りを通じて負担を受けます。そのため、株式譲渡では簿外債務DDの重要性が特に高くなります。
2-2 事業譲渡
事業譲渡は、資産・契約・債務等を個別に移転する特定承継です。どの債務を引き受けるかを契約で定めることができますが、譲受会社が当然にすべての債務から切り離されるわけではありません。契約上の債務移転に必要な手続、会社法上の商号続用等に伴う責任、残存債権者との関係などを個別に確認する必要があります。
また、事業譲渡に伴って労働契約を譲受会社へ移す場合は、労働者本人の承諾が必要です。対象事業に必要な従業員が承継されない可能性も含め、債務の切り分けだけではなく事業継続性を確認する必要があります。
2-3 会社分割・合併
会社分割では、分割契約・分割計画と法定の承継ルールに従って一定の権利義務が承継されます。合併では、消滅会社の権利義務が存続会社又は新設会社へ包括的に承継されます。
そのため、会社分割・合併を利用する案件では、「承継させたいもの」だけでなく、訴訟・偶発債務・契約違反等がどの法人に残り、どの法人へ移る可能性があるかをスキーム設計段階で確認します。
3 簿外債務が見つかりにくい理由
簿外債務がDDで見落とされる主な理由は、単に資料量が多いからではありません。
第一に、問題がまだ債務として確定していない場合があります。従業員から請求されていない未払賃金、取引先から正式請求されていない損害、税務調査でまだ指摘されていない処理などです。
第二に、重要な事実が会計資料ではなく現場に存在します。長年の口頭合意、チャットでの特別条件、取引先からのクレーム、経営者個人による保証、実際の残業運用などは、決算書だけでは確認できません。
第三に、資料が欠けている場合があります。古い雇用契約、労働時間記録、過去契約の更新履歴、保証契約、取締役会議事録等が存在しない場合、「問題がない」ではなく「確認できない」という別のリスクとして評価する必要があります。
4 法務DDで優先して確認したい6つの簿外債務
4-1 未払賃金・労務債務
労務債務は、中小企業M&Aでも金額が膨らみやすい典型的な論点です。労働基準法上の賃金請求権は5年に延長されていますが、経過措置として当分の間3年とされています。
DDでは、就業規則や雇用契約だけでなく、勤怠データ、給与台帳、固定残業代の内訳、36協定、管理監督者として扱っている従業員の実態、未消化の労働紛争・ハラスメント申告等を確認します。
給与計算が適法に見えても、実際の労働時間データと照合すると未払賃金が判明することがあります。法務DDと労務・財務DDを分断せず、サンプル計算や対象人数の把握まで進めることが重要です。
4-2 訴訟・クレーム・コンプライアンス
係争中の訴訟だけでは足りません。内容証明、返金要求、取引先からの是正要請、内部通報、ハラスメント相談、行政からの照会・立入・指導、重大事故の履歴なども確認します。
「訴訟はない」という回答でも、未解決クレームや弁護士相談が継続していれば将来の請求につながる可能性があります。経営陣へのインタビューと、顧問弁護士への照会、クレーム台帳、内部通報記録等を組み合わせて確認します。
参考裁判例:東京地裁平成28年12月20日判決
東京地裁平成28年12月20日判決は、買収後に対象会社が過去の工事をめぐって損害賠償請求訴訟を提起され、和解金や弁護士費用等を負担した事案です。株式譲渡契約締結時点では、対象会社が相手方に対して確定した損害賠償債務を負っていたとは認められませんでしたが、買収前から内容証明郵便による複数回のやり取りがあり、相手方から法的手続を取る旨が示唆されていました。
裁判所は、対象会社の法的責任が認められる可能性が低かったとしても、法的紛争が生じる可能性が皆無とはいえず、売主側もその問題を認識していたと認定し、「紛争のおそれもない」とする表明保証への違反を認めました。その後の訴訟で対象会社が支払った解決金と合理的な訴訟費用についても、表明保証違反と相当因果関係のある損害とされています。
一方、DDで「旧会社との関係で他から請求を受けたことがあるか」と質問され、売主側が「無し」と回答した点については、当時はまだ実際の請求がなかったため、裁判所はその回答自体を虚偽とはしていません。また、質問されていない事項についての積極的な説明義務も否定しました。したがって、DDでは既に訴訟や正式請求があるかだけでなく、内容証明、クレーム、法的措置の示唆など「紛争化するおそれ」がある事項まで質問・開示対象に含めることが重要です。
4-3 保証・担保・金融契約
金融機関借入だけでなく、対象会社がグループ会社や株主、取引先の債務を保証していないかを確認します。経営者保証・物上保証がM&A後も残る案件では、クロージングまでの解除・差替えが重要な課題になります。
融資契約には、株主変更や組織再編によって期限の利益喪失、事前承諾、報告義務等が生じる条項が含まれることがあります。保証・担保一覧、融資契約、銀行取引約定、取締役会議事録等を突合します。
4-4 税務・補助金・助成金
税務リスクの金額評価は税務DDと連携して行いますが、法務DDでも、税務調査・更正・不服申立ての履歴、重要な税務処理の前提となる契約関係、補助金・助成金の交付条件を確認します。
特に補助金・助成金は、「現在返還債務がない」ことだけでなく、株主変更、企業グループ変更、対象設備の処分、事業内容の変更等によって返還・不交付・適格性喪失が生じないかを確認します。
4-5 不動産・環境・原状回復
工場、倉庫、店舗、研究施設等を利用する会社では、賃貸借上の原状回復義務、用途違反、消防・建築上の是正、土壌汚染等が多額の費用につながることがあります。
土壌汚染対策法では、有害物質使用特定施設の廃止時や一定規模以上の土地の形質変更等に関連して調査・届出等が問題となる場合があります。法定調査の対象でない土地でも、過去の土地利用履歴から自主調査を検討すべき案件があります。
所有・賃借不動産の一覧、過去用途、行政届出、環境調査、賃貸借契約、原状回復条項、修繕履歴等を確認します。
4-6 重要契約・知財・IT・データ
重要契約では、既発生の未払金だけでなく、最低購入義務、解約金、販売奨励金の精算、返金義務、品質保証、SLA、原状回復、チェンジ・オブ・コントロール条項等を確認します。
知財・ITでは、事業中核のソフトウェアやコンテンツについて権利帰属が不十分であれば、買収後に追加費用や利用停止リスクが生じます。個人情報・セキュリティについても、過去インシデントの未対応や委託先管理不備が、是正費用や顧客対応費用につながります。
5 「資料がない」「説明と資料が合わない」は重要なレッドフラッグ
法務DDでは、提出された資料の内容だけでなく、資料の欠落や説明との不一致を確認します。
例えば、
- 売主は保証債務がないと説明しているが、取締役会議事録に第三者保証の承認がある
- 就業規則上は残業申請制だが、勤怠ログでは恒常的な長時間労働がある
- 主要顧客契約は自動更新と説明されているが、別紙・サイドレターに短期解約権がある
- 補助金一覧には記載がないが、固定資産台帳上の設備に補助金取得の履歴がある
といった不整合は、個別論点だけでなく、開示体制そのものの信頼性にも関わります。
追加資料請求、Q&A、経営陣・担当者インタビューを繰り返し、最終的に「確認できた事実」「確認できなかった事項」「売主説明に依存する事項」を区別して整理します。
6 簿外債務を「発見した」で終わらせず、金額と取引影響へ落とす
DD報告では、法的論点の有無だけでなく、少なくとも次の観点で取引への影響を整理します。
- 既に金額が確定している債務
- 発生可能性は高いが金額が未確定の債務
- 発生可能性・金額の双方に幅がある偶発債務
- 金額化しにくいが、主要契約喪失、許認可、事業停止等につながる構造的リスク
リスクを正確に一点の数字へ置き換えられない場合は、想定レンジ、最大曝露額、是正費用、請求対象人数、影響契約の売上割合等を用いて経営判断へ接続します。
「法的には問題があります」という結論だけでは、価格・契約交渉に使えるDDになりません。
7 DDで見つかった簿外債務を最終契約へ反映する
7-1 価格調整
既に負担が見込まれ、買収後に対象会社から資金流出する可能性が高い場合は、買収価格への反映を検討します。簿外債務を売主の補償義務だけに委ねるより、確度が高いものは価格へ直接反映する方が回収リスクを抑えられる場合があります。
7-2 クロージング前の是正・前提条件
重要な債務や契約違反をクロージング前に解消できる場合は、解除証書の取得、保証・担保の解除、未払金の精算、相手方同意の取得、行政手続の完了等をクロージング前提条件とします。
7-3 表明保証と開示
売主に、訴訟・労務・税務・保証・重要契約・環境等について表明保証を求める場合、どの範囲を「開示済み」として例外化するかを明確にします。
「DDで資料を見せたから開示した」と「開示資料で明確に特定された事実だけを例外とする」では、リスク配分が大きく異なります。Disclosure Scheduleや開示資料の範囲・効果を契約上明確にすることが重要です。
参考裁判例:東京地裁令和4年10月27日判決
東京地裁令和4年10月27日判決は、対象会社の全株式を取得した後、未払公共料金、未払法定福利費、源泉所得税未納分、立替金等の未払債務や、売掛金の過大計上が判明した事案です。契約では、対象会社の貸借対照表・損益計算書が一定の会計基準に従い財務状態等を適正に表示していることが表明保証されていました。
裁判所は、これらの未払債務や過大計上について表明保証違反を認めました。買主側は契約前に税務DDを実施し、総勘定元帳等の開示も受けていましたが、例えば立替金債務については複数の勘定科目で不正確に処理されており、その記載から買主が債務の存在・金額を認識できたとはいえないと判断されています。また、全株式を取得した買主について、表明保証により対象会社が有するべき財産が、後から判明した未開示債務や不存在資産の分だけ減少した額を損害と認めました。一方、契約上の少額免責条項については、その文言・趣旨に従って適用しています。
この事例は、DDを実施したという事実だけで買主の救済が当然に失われるわけではなく、どの情報がどの程度開示され、そこから具体的な債務を認識できたかが重要であることを示しています。同時に、表明保証の対象、開示の効果、免責額、損害算定の定めを契約上具体化しておく必要があります。
7-4 特別補償
DDで具体的に把握した未払賃金、税務、紛争、環境、補助金返還等については、一般的な表明保証違反とは別に、特別補償を設けることを検討します。
一般補償と同じ上限・免責・請求期間を適用すると、既知の高リスク事項を十分にカバーできないことがあります。
7-5 留保・エスクロー等
売主の補償義務があっても、クロージング後に売主が無資力となれば回収できません。重要な簿外債務が残る場合は、売買代金の一部留保、エスクロー、分割払その他の回収確保策を検討します。
7-6 補償請求の期限・通知手続
表明保証違反や簿外債務をクロージング後に発見しても、補償条項に請求期間や通知方法が定められている場合は、その条件を満たさなければ補償を受けられないことがあります。補償期間だけでなく、通知先、通知方法、記載事項、損害額が未確定の場合の扱い、期間内にどの程度の特定を要するかまで確認し、クロージング後の管理表に落とし込むことが重要です。
参考裁判例:東京地裁令和3年10月12日判決
東京地裁令和3年10月12日判決は、株式譲渡前に提示された貸借対照表に約627万円の未計上負債があったとして、買主が表明保証違反に基づく補償を求めた事案です。契約では、違反の事実と損害等の原因・金額を明記した書面により、クロージング日から1年以内に請求した場合に限って補償責任を負うと定められていました。
裁判所は、株式譲渡では法律関係を早期に確定する要請が高いことや、買主がDDを実施できることなどを踏まえ、この1年の制限を権利行使期間ないし除斥期間と解しました。そして、所定の書面を送付しないまま1年を経過した以上、補償請求権は行使できないと判断しました。また、契約に救済手段を補償条項等に限定する定めがあったため、別途、一般の債務不履行責任に基づく損害賠償請求をすることも認めませんでした。未計上負債が表明保証違反に当たるか自体は判断されていません。
この判決からは、簿外債務を発見するDDだけでなく、クロージング後の補償請求期限と通知手続を管理すること、さらに補償条項と救済手段限定条項の組合せを確認することが重要であると分かります。
8 表明保証があってもDDを省略できるわけではない
表明保証は、売主が一定の事実を契約上保証する仕組みであり、DDの代替ではありません。
第一に、表明保証には上限、免責、請求期間、知識限定、重要性限定等が付されることがあります。
第二に、売主が無資力であれば補償請求の実効性がありません。
第三に、買主がDDで認識していた事項を補償対象から除外するか、認識の有無にかかわらず補償させるかは、契約文言によって異なります。
したがって、DDでリスクを把握し、そのリスクをどの契約条項で処理したかを対応表にしておくことが有効です。
9 売り手側でも簿外債務を事前に整理する意味がある
簿外債務DDは買い手だけの問題ではありません。売り手が案件開始前に問題を把握していれば、是正できる事項を先に処理し、開示方法や価格への影響を整理できます。
一方、DD開始後に不自然に資料を書き換えたり、問題資料を除外したりすると、問題そのものよりも開示の信頼性を損なうおそれがあります。
売り手側では、主要契約、労務、保証・担保、紛争、税務・補助金、許認可、環境等について簡易的なセルフDDを行い、開示対象と是正対象を整理しておくことが有効です。
10 弊所の実務上の視点
簿外債務DDでは、「債務一覧を作る」ことよりも、「買収後に誰が、いつ、どの程度の負担をする可能性があるか」を明確にすることが重要です。
例えば未払残業代が疑われる場合、単に「労務リスクあり」とするのではなく、対象人数、対象期間、概算レンジ、資料の欠落、今後の運用是正、売買価格・特別補償への反映まで整理します。
また、契約・税務・労務・環境の問題は相互に関連します。対象会社の説明を分野ごとに別々に読むのではなく、同じ事実が各資料で整合しているかを横断的に確認することが、簿外債務の発見につながります。
11 簿外債務・法務DDチェックリスト
- M&Aスキームごとの債務・契約・労働関係の承継構造を確認した
- 未払賃金、固定残業代、労働時間、社会保険のリスクを確認した
- 訴訟だけでなく、クレーム、内容証明、内部通報、行政対応を確認した
- 融資、保証、担保、経営者保証、財務制限条項を確認した
- 税務調査履歴と補助金・助成金の返還条件を確認した
- 所有・賃借不動産の原状回復、土壌・環境・用途規制を確認した
- 主要契約の違約金、最低購入、解約、CoC、返金義務を確認した
- 知財・ソフトウェア・データの権利帰属と事故履歴を確認した
- 「資料なし」「説明と資料の不一致」を未確認リスクとして記録した
- 各リスクを価格・前提条件・表明保証・特別補償・留保へ振り分けた
- 売主の補償義務について上限、期間、免責、知識限定、開示の効果、請求期限・通知方法を確認した
- クロージング後の回収可能性を踏まえ、必要に応じ留保・エスクロー等を検討した
12 FAQ
Q1.簿外債務は法務DDをすればすべて発見できますか?
A.いいえ。未発生の請求、口頭合意、資料欠落、経営陣が把握していない事実などがあるため、完全な発見を保証することはできません。資料、Q&A、インタビュー、外部情報を組み合わせて発見可能性を高め、未確認事項は契約上のリスク配分で補完します。
Q2.株式譲渡では買主が対象会社の債務を承継するのですか?
A.買主が対象会社の債務者になるという意味で直接承継するわけではありません。対象会社自体が従前の債務を負い続け、買主はその会社の株主となるため、債務の顕在化による企業価値・資金繰りへの影響を経済的に受けます。
Q3.事業譲渡なら簿外債務を完全に切り離せますか?
A.一律にはいえません。事業譲渡は特定承継ですが、どの債務を引き受けるか、契約移転に必要な同意、会社法上の責任、労働契約の承継等を個別に確認する必要があります。
Q4.未払残業代は何年分確認すればよいですか?
A.労働基準法上の賃金請求権は原則5年とされつつ、現在は経過措置として当分の間3年です。ただし、資料保存、時効の完成猶予・更新、訴訟・行政対応等との関係もあるため、機械的に3年だけを見れば足りるとは限りません。
Q5.表明保証で「簿外債務なし」と書けば十分ですか?
A.十分とは限りません。対象範囲、知識限定、重要性限定、開示事項、補償上限・期間、売主の資力等によって実効性が変わります。既知の具体的リスクは特別補償や価格・留保で処理することも検討します。
Q6.DDで既に知っていた問題は補償請求できませんか?
A.一律には決まりません。買主の認識を表明保証・補償責任にどう影響させるかは、契約文言や開示条項の設計によります。DDで認識した事実と最終契約の処理を一致させることが重要です。
Q7.小規模M&Aでも環境DDは必要ですか?
A.すべての案件で同じ深さの環境調査が必要なわけではありません。ただし、工場、ガソリンスタンド、クリーニング、研究施設、廃棄物取扱い等、土地利用履歴や事業内容から環境リスクが高い場合は優先度を上げる必要があります。
Q8.簿外債務が見つかったらM&Aは中止すべきですか?
A.必ずしもそうではありません。金額・発生可能性・是正可能性を評価し、価格調整、クロージング前是正、特別補償、留保、スキーム変更等で管理できるかを検討します。
13 弁護士への相談を検討すべき場面
- 株式譲渡で未払賃金、訴訟、保証、税務等の潜在債務が多い
- 売主の説明と契約・議事録・会計資料が一致しない
- 重要な保証・担保・経営者保証の解除が必要である
- 工場・店舗・不動産に環境・原状回復リスクがある
- 補助金・助成金や許認可についてM&Aによる影響が不明である
- DDで発見したリスクを価格、表明保証、特別補償へどう反映するか判断が難しい
- 売主の資力に不安があり、補償請求の回収確保まで設計する必要がある
14 まとめ:簿外債務DDは「発見」と「契約への反映」を一体で行う
M&Aにおける簿外債務は、会計上未計上の債務だけではなく、未払賃金、紛争、保証、税務・補助金、環境、契約、知財・IT等、買収後に対象会社の価値を毀損する潜在的負担を含めて確認する必要があります。
特に株式譲渡では、対象会社自体に既存の債務が残るため、買主はDDを通じて将来負担をできる限り可視化しなければなりません。事業譲渡、会社分割、合併では承継構造が異なるため、スキームに応じた確認が必要です。
そして、DDで見つかった問題は、価格調整、是正、クロージング前提条件、表明保証、特別補償、留保等へ具体的に落とし込む必要があります。「問題を見つけた」で終わらず、誰がどのリスクを負担するかまで最終契約で設計することが、買収後の紛争を減らすポイントです。
15 参考裁判例
東京地裁令和4年10月27日判決(令和3年(ワ)第7686号)
東京地裁令和3年10月12日判決(令和2年(ワ)第32662号)
東京地裁平成28年12月20日判決(平成28年(ワ)第14140号)
16 主要な一次資料
厚生労働省「企業組織の再編(会社分割等)に伴う労使関係(労働契約の承継等)について」