税務・法務

2026年10月10日

役員報酬・退職金の法務と税務:取締役会で検討すべき設計ポイント

役員報酬や役員退職金は、会社法上の意思決定と税務上の損金算入要件を同時に満たす必要がある分野です。株主総会や取締役会で適切に決議していても、法人税法上の定期同額給与・事前確定届出給与等の要件を満たさなければ損金算入できない場合があります。反対に、税務上の要件だけを意識しても、会社法上必要な決議や権限分配が不十分であれば、ガバナンス上の問題が残ります。

特に注意したいのは、「毎月同額でなければ一切損金にならない」「業績悪化で役員報酬を減額すると必ず損金不算入になる」「役員賞与は事前確定届出給与にすれば後から自由に変更できる」といった単純化です。現行制度には通常改定、臨時改定事由、業績悪化改定事由、事前確定届出給与、一定の業績連動給与など複数の枠組みがあり、会社法上の決議時期と税務上の要件を同じスケジュールで管理する必要があります。

最初に押さえるポイント

会社法上は、取締役の報酬等について定款に定めがなければ、原則として株主総会で金額・算定方法等を定めます。税務上は、その決議が適法であるだけでは損金算入が保証されません。役員退職金も、会社法上の手続、法人側の損金算入、受給者側の退職所得課税をそれぞれ分けて確認します。以下は2026年9月時点の法令・公表資料を前提に整理します。

1 会社法と税務は「別のチェック」を重ねる

会社法361条は、取締役が職務執行の対価として会社から受ける報酬、賞与その他の財産上の利益について、定款に定めがなければ株主総会の決議で所定の事項を定めることを求めています。額が確定している報酬はその額、額が確定していない報酬は具体的な算定方法を定めるのが基本です。株式・新株予約権を報酬として利用する場合には、さらに法定の事項を確認する必要があります。

一方、法人税法34条は、会社法上適法に決めた役員給与であっても、定期同額給与、事前確定届出給与又は一定の業績連動給与等の要件を満たさないものを原則として損金不算入とします。また、これらに該当しても不相当に高額な部分は損金算入されません。したがって、役員報酬は「誰が決めるか」と「税務上いつ・どのように支給するか」を別々に確認する必要があります。

確認レイヤー 主な論点 残すべき資料
会社法 定款・株主総会で何を決めるか、個人別額の決定権限、機関設計 定款、株主総会議事録、取締役会議事録、報酬規程
法人税 定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与、過大給与 税務検討メモ、届出書、給与台帳、支払記録
所得税・源泉 役員本人の給与所得・退職所得、源泉徴収 源泉徴収簿、退職所得の受給に関する申告書、源泉徴収票
ガバナンス 業績との連動、利益相反、説明可能性、後継・退任設計 算定根拠、評価資料、同業比較、職務・権限資料

2 「取締役会で決めればよい」とは限らない

取締役会設置会社であっても、役員報酬の大枠を取締役会だけで自由に決められるわけではありません。定款に報酬事項の定めがない場合には、会社法361条に沿って株主総会で必要事項を定め、その範囲内で個人別の配分等を決める仕組みを設計します。具体的な決定方法は、株主総会決議の内容、会社の機関設計、報酬の種類によって異なります。

また、一定の公開大会社で有価証券報告書提出義務のある監査役設置会社や監査等委員会設置会社では、会社法361条7項に基づき、一定の場合、取締役会が取締役の個人別報酬等の内容について決定方針を定める必要があります。非上場会社で同じ法定義務が常にあるわけではありませんが、報酬決定の根拠・手順を社内で明文化しておくことは、株主間紛争やM&A・IPOのDDでも有用です。

決定事項 実務上の確認
報酬総額・上限 株主総会決議又は定款の範囲が現在の役員数・報酬水準に合っているか
個人別配分 誰に決定権限があるか、決議・規程・実際の支給が一致しているか
賞与・変動報酬 会社法上の算定方法と法人税上の損金算入要件を両方確認する
株式・SO報酬 会社法上の報酬決議に加え、発行手続・税務・開示等を別途確認する
退職慰労金 支給根拠、決定手続、算定基準、税務上の相当性を確認する

3 月額役員報酬は「定期同額給与」の改定時期が重要

典型的な月額役員報酬は、法人税法上の定期同額給与として設計します。国税庁は、1か月以下の一定期間ごとに支給され、事業年度の各支給時期の支給額等が同額である給与を基本形として示しています。

ただし、年度途中で一切変更できないわけではありません。通常の定時改定については、原則として会計期間開始の日から3か月を経過する日までの改定が制度上予定されています。このほか、役員の地位・職務内容の重大な変更等による臨時改定事由や、経営状況が著しく悪化したこと等による業績悪化改定事由に基づく減額改定が認められる場合があります。

ここで重要なのは、「利益が予算未達だった」「一時的に資金繰りが厳しい」という事情だけで業績悪化改定事由に当たるわけではない点です。国税庁も、一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことは含まれないと説明しています。減額を検討する場合は、改定理由を取締役会議事録等に具体的に残し、税務上の要件を事前に確認します。

改定類型 典型場面 実務上の注意
通常改定 定時株主総会等に合わせた年次見直し 原則として会計期間開始から3か月以内の改定かを確認する
臨時改定 昇格・降格、職務内容の重大変更等 役員の地位・職務の実質的変化と改定額の関係を記録する
業績悪化改定 経営状況の著しい悪化等による減額 単なる目標未達・一時的資金繰りでは足りない。客観資料を残す
任意の途中変更 節税目的・利益調整等による増減 定期同額給与の要件を外れる可能性が高く、事前検討が必要

4 役員賞与は「事前確定届出給与」を先に設計する

役員へ年1回の賞与などを支給する場合、事前確定届出給与として損金算入を目指すことがあります。これは、役員の職務について所定の時期に確定額の金銭等を支給する旨をあらかじめ定め、一定の場合には所定の期限までに税務署へ届出を行う制度です。

国税庁の現行案内では、原則として、株主総会等で定めをした日等から1か月を経過する日と、会計期間開始の日から4か月を経過する日等のうち、いずれか早い日までに届出が必要とされています。新設法人や臨時改定事由がある場合などには別の期限があります。実際の適用では、法人の決算期・株主総会日・職務執行開始日を基に個別に期限を確認します。

事前確定届出給与は、年度途中の役員給与変更を後から救済する制度ではありません。届出どおりの時期・金額で支給できるよう、資金繰りを含めて先に設計します。変更する場合も、臨時改定事由や業績悪化改定事由に基づく一定の変更など、制度上認められる場面と届出期限を確認する必要があります。

5 業績連動給与は「計算式を決めれば使える」制度ではない

法人税法上、一定の業績連動給与も損金算入の対象となり得ますが、対象法人・対象役員・算定指標・決定手続・開示等について詳細な要件があります。国税庁は、同族会社については、同族会社以外の法人との間にその法人による完全支配関係があるものに限るなど、対象範囲を限定しています。

そのため、典型的なオーナー企業が「利益の10%を社長賞与にする」と決めれば当然に業績連動給与として損金算入できるわけではありません。業績連動報酬を採用する場合は、会社法上の算定方法の決議だけでなく、法人税法上の要件を満たすかを制度導入前に確認します。

6 役員報酬の「過大部分」は別途損金不算入になり得る

定期同額給与や事前確定届出給与の形式を満たしていても、役員給与のうち不相当に高額な部分は法人税法34条2項により損金算入されません。税務上は、形式要件を満たすことと、金額自体の相当性は別の論点です。

非上場のオーナー企業では、株主と役員が同一であることも多く、利益処分と役務対価の境界が問題になりやすいため、職務内容、責任、業績、従業員給与との関係、同業同規模法人の水準等を説明できる資料を残しておくことが重要です。報酬額を大きく引き上げる場合は、単に「株主総会で承認した」だけでなく、その水準の合理性も検討します。

7 役員退職金は「会社法・法人税・所得税」の3段階で見る

役員退職慰労金も、退任に伴う職務執行の対価として支給される場合には会社法361条の報酬等として、定款・株主総会決議等の適切な手続を確認します。そのうえで、法人側では損金算入の時期と金額の相当性、受給者側では退職所得に該当するかと所得計算を別々に確認します。

段階 主な確認
会社法 支給根拠、株主総会等の決議、算定基準、個別額の決定権限
法人税 額が具体的に確定した時期、損金経理、不相当に高額な部分の有無
所得税 退職に基因する一時金か、退職所得控除、特定役員退職手当等の該当性
源泉実務 退職所得の受給に関する申告書、源泉徴収、源泉徴収票等

8 法人側の役員退職金は「額が確定した年度」が原則

国税庁は、法人が役員に支給する退職金で適正な額のものについて、原則として株主総会の決議等により退職金額が具体的に確定した日の属する事業年度に損金算入するとしています。実際に支払った事業年度に損金経理した場合には、その支払年度で損金算入する取扱いも認めています。

一方、退職金額が具体的に確定する前の事業年度に取締役会等で内定し、未払金に計上しただけでは、その時点の損金にはできません。M&Aや事業承継の前に「将来の退職金」を費用計上しておきたいという場面では、会計上の処理と法人税上の損金算入時期を分けて確認する必要があります。

9 退職金の「功績倍率」は法定の安全基準ではない

役員退職金の金額については、法人税法上、不相当に高額な部分が損金不算入となります。法人税法施行令は、役員が法人の業務に従事した期間、退職の事情、同種・類似規模法人の役員退職給与の支給状況等を踏まえて相当額を判断する枠組みを置いています。

実務では「最終月額報酬×勤続年数×功績倍率」といった功績倍率法が利用されることがありますが、特定の倍率を用いれば税務上当然に安全になるという法定ルールではありません。最終月額報酬が功績を適切に反映しているか、退任直前に報酬を大きく引き上げていないか、同業比較の対象が合理的かなど、算定の前提自体が問題になります。

退職慰労金規程を整備することは有用ですが、規程どおりに計算したという事実だけで過大性の問題が消えるわけではありません。高額な退職金を予定する場合は、規程、過去運用、功績、同業比較、退任理由を一体で整理します。

関連裁判例:平均功績倍率法と特別功労の評価

東京高裁平成30年4月25日判決(平成29年(行コ)第334号、平成30年(行コ)第27号)は、死亡退職した元代表取締役への役員退職給与4億2000万円のうち、不相当に高額な部分があるかが争われた事案です。高裁は、合理的に抽出した同業類似法人の平均功績倍率3.26を用い、最終月額報酬240万円×勤続年数27年×平均功績倍率3.26で算定した2億1124万8000円を相当な退職給与額と認めました。

高裁は、平均功績倍率法について、同業類似法人間に通常存在する個別差や特殊性を平均化して平準化された数値を得る点に意義があると説明しています。また、会社側が元代表者の特別な功績を主張した点についても、合理的な同業類似法人の抽出によって通常の個別事情は比較結果に反映されるとし、それでも把握しにくいほどの極めて特殊な事情がある場合に限って別途考慮すれば足りるとの考え方を示しました。

この裁判例からも、功績倍率は「何倍なら安全」という固定的な基準ではなく、最終月額報酬、勤続年数、比較法人の選定、退職事情、特別功労の具体性まで含めて説明できることが重要といえます。特別功労を理由に通常の算定額を大きく上乗せする場合には、その功労の内容・会社への寄与・算定根拠を客観資料で残しておく必要があります。

10 役員本人の退職所得は「5年以下」の特例に注意する

所得税上、退職所得は、退職により一時に受ける給与等で、退職しなかったなら支払われなかったものなどが基本となります。一般の退職手当等では、退職所得控除後の残額について原則2分の1課税の仕組みがあります。

ただし、役員等としての勤続年数が5年以下の者が、その役員等勤続年数に対応して受け取る「特定役員退職手当等」については、退職所得控除後の残額を2分の1とする措置がありません。会社側で退職金が損金になるかどうかと、役員本人の所得税計算は別の制度ですので、支給総額だけでなく手取りも事前に試算します。

受給者側の区分 基本的な考え方
一般の退職手当等 原則として(収入金額-退職所得控除額)×1/2で退職所得を計算
特定役員退職手当等 役員等勤続年数5年以下の対応部分は1/2課税を適用しない
退職に基因しない支給 支給理由・実態によって給与所得等となる可能性がある

11 「代表を外れただけ」の退職金は実質的な退職かを確認する

オーナー企業では、代表取締役を退任した後も取締役や会長として会社に残り、退職金を支給するケースがあります。この場合、形式上の役職変更だけで退職給与として扱えるとは限りません。法人税・所得税の双方で、実質的に退職したと同様の事情があるかを確認します。

国税庁は、役員の分掌変更について、常勤役員から非常勤役員になった場合、取締役から監査役になった場合、分掌変更後の役員給与がおおむね50%以上減少した場合などを例示していますが、代表権を保持している場合や、実質的に経営上主要な地位を占め続ける場合などは除外しています。これらは形式的なチェックリストではなく、実際の権限・職務の変化を確認するための例示として扱うべきです。

確認事項 具体的に見る事実
代表権・決裁権 代表権の有無、稟議・銀行・採用・投資等の決裁権限
職務内容 営業・経営会議・取締役会での役割が実際に縮小したか
勤務実態 常勤・非常勤、出社頻度、業務時間、部下・組織の有無
報酬水準 分掌変更前後の役員報酬がどの程度変わったか
後任体制 後任代表者が実際に経営を主導しているか

関連裁判例:分掌変更で「実質的退職」が認められた事例

東京地裁平成20年6月27日判決(平成18年(行ウ)第466号、平成19年(行ウ)第270号)は、同族会社の代表取締役が取締役を辞任して監査役に就任し、退職給与の支給を受けた事案です。裁判所は、分掌変更時の退職給与について、通達上の例示だけで機械的に判断するのではなく、役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したのと同様の事情があるかを具体的事情に基づいて判断すべきとしました。

本件では、前代表者が従前は経営の中心を担っていた一方、健康状態の悪化に伴って業務量・重要性が低下し、代表取締役・取締役を退任して監査役に就任した後は会社業務を一切行わなくなり、後任代表者が主要業務を中心となって行っていたことなどが重視され、実質的退職が認められました。前代表者が35%を保有する筆頭株主であり、後任代表者の父であったことも、それだけで実質的退職を否定する事情とはされませんでした。

もっとも、この判決では実質的退職が認められた一方、退職給与額が当該事業年度末までに具体的に確定していなかったため、その年度での損金算入は認められませんでした。役職・職務の実態だけでなく、退職金額をいつ、どの機関で、いくらと具体的に決定したかを議事録・算定資料・支払記録で一致させる必要があります。

対照事例:代表取締役を退任しても取締役として残った場合

東京高裁平成18年6月13日判決(平成18年(行コ)第15号)では、前代表者について会社側が取締役も一度退任したと主張しましたが、議事録、商業登記、辞任・再任の経緯等を踏まえ、裁判所は少なくとも取締役を退任した事実はなく、その後も継続して取締役の地位にあったと認定しました。代表取締役という肩書を外したことだけで、当然に退職給与として扱えるわけではないことを示す事例です。

また、同判決は、当時の分掌変更に関する通達上の「退職給与として支給した給与」について、現実に支払われた退職給与を指し、未払計上だけでは足りないとの判断も示しました。現在の国税庁の取扱いでも、分掌変更等の場合の退職給与については、原則として未払金等に計上した額は含まれないとされています。したがって、分掌変更退職金を検討する場合は、肩書、権限、職務、勤務実態、報酬、後任体制に加え、支給時期まで一体で確認することが重要です。

12 取締役会で管理したい年間スケジュール

役員報酬は、定時株主総会の議案作成と税務届出を別々に処理すると、期限や金額がずれやすい分野です。決算期ごとに「会社法上の決議」と「法人税上の期限」を一つのカレンダーにまとめます。

時期 主な検討 確認資料
期末前~決算確定 翌期の役員構成・報酬方針、賞与・株式報酬の有無を検討 事業計画、役員職務、前年の報酬・業績
期首~3か月 月額報酬の通常改定、定時株主総会・取締役会決議 株主総会議案、議事録、報酬規程
所定期限まで 事前確定届出給与を利用する場合の届出 届出書、支給時期・金額、資金繰り表
期中 役職・職務変更、著しい業績悪化等があれば改定可否を確認 決裁資料、業績資料、金融機関対応等
退任検討時 退職慰労金、分掌変更、後任権限、源泉税を一体確認 退職慰労金規程、算定メモ、同業比較、権限規程

13 弊所の実務上の視点

役員報酬のトラブルは、金額そのものより「決議書と実際の支給が一致していない」「税理士へ伝えた条件と会社の議事録が違う」「役職変更の実態がないのに退職金だけ支給している」といった資料間の不整合から発見されることがあります。

特にM&A・IPO・金融機関の審査では、過去数年の株主総会議事録、取締役会議事録、給与台帳、税務届出、退職慰労金規程等を横断して確認されます。毎年の決定時に、会社法上の権限、税務上の要件、実際の支払データを同じ担当表で照合しておくと、後からの説明コストを大きく減らせます。

14 よくある設計・運用ミス

ミス 問題点 改善策
取締役会だけで役員報酬を決める 定款・株主総会の決議範囲と整合しない可能性がある 会社法361条と機関設計を確認し、株主総会決議と個別決定をつなげる
期中に利益調整目的で月額報酬を変える 定期同額給与から外れ、損金不算入が生じ得る 改定前に通常改定・臨時改定・業績悪化改定のどれかを確認する
業績悪化なら必ず減額できると考える 単なる目標未達や一時的資金繰りは要件を満たさない 悪化の程度・外部要因・金融機関対応等を客観資料で残す
賞与を決めてから届出を検討する 届出期限や確定額・支給時期が合わなくなる 期首から株主総会・届出・支払日を一体設計する
功績倍率を使えば退職金は安全と考える 倍率は法定のセーフハーバーではない 最終報酬・勤続年数・功績・同業比較の合理性を記録する
名目だけ退任して高額退職金を支払う 法人税・所得税上、退職給与性が争われ得る 代表権・決裁権・勤務・報酬・後任体制まで実質的に変更する

15 役員報酬・退職金チェックリスト

  • 定款・過去の株主総会決議で役員報酬の枠・決定方法を確認した
  • 個人別報酬の決定権限と取締役会・代表取締役等への委任関係を確認した
  • 月額報酬の改定時期が定期同額給与の通常改定要件に合っている
  • 期中変更の場合、臨時改定事由又は業績悪化改定事由の根拠資料を残した
  • 役員賞与を支給する場合、事前確定届出給与の対象・届出期限・支給時期を確認した
  • 業績連動給与を使う場合、対象法人・対象役員・算定指標・手続等の要件を確認した
  • 報酬額が職務・責任・業績・同業水準等から不相当に高額でないか確認した
  • 退職慰労金規程と株主総会等の決定手続が整合している
  • 退職金算定の基礎となる最終報酬・勤続年数・功績・同業比較を保存した
  • 退職金の損金算入時期を、額の具体的確定時期・支給時期と照合した
  • 役員等勤続年数5年以下の場合、特定役員退職手当等の所得税計算を確認した
  • 分掌変更退職金の場合、代表権・職務・報酬・勤務実態が実質的に変わっているか確認した
  • 給与台帳、源泉徴収、税務届出、株主総会・取締役会議事録の金額・日付が一致している

16 FAQ

Q. 役員報酬は株主総会で毎年決めなければなりませんか?

A. 一律ではありません。定款や既存の株主総会決議の内容、報酬枠、個人別の決定方法等によって必要な対応が異なります。ただし、法人税上の通常改定時期とは別問題なので、毎期の税務要件は確認します。

Q. 期中に役員報酬を減額すると必ず損金不算入ですか?

A. いいえ。役員の職務の重大な変更等による臨時改定事由や、経営状況の著しい悪化等による業績悪化改定事由に基づく減額など、制度上認められる場合があります。単なる利益目標未達や一時的資金繰りだけでは足りません。

Q. 役員賞与を支給した後で事前確定届出給与の届出をすればよいですか?

A. 原則としてその考え方は適切ではありません。事前に支給時期・金額を定め、所定期限までに必要な届出を行う制度です。届出と実際の支給を一致させる前提で設計します。

Q. オーナー会社でも業績連動給与を損金にできますか?

A. 一般の同族会社には利用しにくい制度です。法人税法上、対象法人・業務執行役員・算定方法・決定手続等に要件があるため、単に利益連動の算式を決めるだけでは足りません。

Q. 役員退職金規程があれば、規程どおり全額を損金にできますか?

A. そうとは限りません。不相当に高額な部分は損金不算入となり得ます。規程は重要な資料ですが、勤続年数、退職事情、同業同規模法人の支給状況等を踏まえた相当性を確認します。

Q. 役員退職金はいつ損金にできますか?

A. 原則として、株主総会の決議等により退職金額が具体的に確定した日の属する事業年度です。実際に支払った年度に損金経理して、その支払年度に算入する取扱いもあります。具体的確定前の単なる内定・未払計上では原則として損金算入できません。

Q. 代表取締役を退任して会長に残れば退職金を支給できますか?

A. 名称だけでは判断できません。代表権、実際の決裁権、勤務状況、報酬、後任者への権限移譲等から、実質的に退職したと同様の事情があるかを確認する必要があります。

Q. 役員の勤続年数が5年以下でも退職所得控除は使えますか?

A. 退職所得控除は適用されますが、特定役員退職手当等に該当する部分については、控除後の残額を2分の1とする計算は適用されません。

17 弁護士・税理士へ早めに相談したい場面

  • 役員報酬枠や過去の株主総会決議が古く、現在の支給額との整合が不明である
  • 期中に役員報酬を増減する必要があり、税務上の改定事由に該当するか判断しにくい
  • 役員賞与・株式報酬・業績連動報酬を新たに導入する
  • 創業者・代表者の退任に伴い高額な役員退職金を支給する
  • 代表取締役から会長・顧問等へ移行し、分掌変更退職金を検討する
  • M&A・IPO・事業承継に向けて過去の役員報酬・退職金の決議と税務処理を整理する
  • 税務調査で役員給与の定期同額性・過大性・退職給与性を指摘されている

役員報酬・退職金は、会社法と税務を別々の担当者が処理すると不整合が生じやすい分野です。金額を決める前に、誰がどの決議を行うか、法人税上どの区分で損金算入を目指すか、役員本人の所得税・源泉徴収がどうなるかを同じ資料で確認することが重要です。

まとめ 「決め方・時期・金額・実態」を一つの資料で管理する

役員報酬は、会社法上の株主総会・取締役会等の権限関係と、法人税上の定期同額給与・事前確定届出給与・一定の業績連動給与の要件を両方満たす必要があります。期中改定についても、通常改定、臨時改定事由、業績悪化改定事由を分けて判断し、利益調整目的の任意変更と混同しないことが重要です。

役員退職金は、支給手続だけでなく、法人側の損金算入時期・金額の相当性と、役員本人の退職所得課税を別々に確認します。特に高額退職金や分掌変更退職金では、規程・功績倍率等の形式だけでなく、実際の権限・職務・報酬・後任体制を説明できる資料が重要です。毎期の決議、税務届出、給与台帳を一つの年間スケジュールで管理することが、法務・税務双方のリスクを減らします。

18 参考裁判例

東京高等裁判所平成30年4月25日判決(平成29年(行コ)第334号、平成30年(行コ)第27号)

東京地方裁判所平成20年6月27日判決(平成18年(行ウ)第466号、平成19年(行ウ)第270号)

東京高等裁判所平成18年6月13日判決(平成18年(行コ)第15号)

19 主要な一次資料

会社法(平成17年法律第86号)361条ほか — e-Gov法令検索

法人税法(昭和40年法律第34号)34条 — e-Gov法令検索

法人税法施行令69条・70条 — e-Gov法令検索

国税庁 No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」

国税庁 No.5208「役員の退職金の損金算入時期」

国税庁 No.2728「退職所得の収入金額の収入すべき時期」

国税庁 No.5203「使用人が役員へ昇格したとき又は役員が分掌変更したときの退職金」

国税庁 No.2725「退職所得となるもの」

国税庁 No.2737「役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(特定役員退職手当等)」

国税庁 No.2732「退職手当等に対する源泉徴収」

役員報酬・退職金に関するご相談

役員報酬・役員退職金の設計では、会社法上の決議手続と税務上の損金算入要件、役員本人の所得税・源泉徴収を同じ前提で確認することが重要です。報酬改定、役員賞与、退職慰労金、分掌変更退職金、M&A・IPO前の過去処理の整理などが必要な場合はご相談ください。

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