労務・人事法務

2026年9月22日

就業規則と副業・兼業規制:企業が守るべきルールと裁判例

副業・兼業について、企業が就業規則で一律に全面禁止するのではなく、勤務時間外の副業・兼業を原則として認めたうえで、事前の届出により内容や労働時間を把握し、本業への支障、企業秘密の漏えい、会社の名誉・信用や信頼関係への重大な影響、競業による企業利益の侵害などが具体的に認められる場合に禁止・制限できる仕組みとすることが、現在の厚生労働省のガイドラインやモデル就業規則に沿った考え方です。

もっとも、副業を認めれば就業規則を書き換えるだけで済むわけではありません。副業先でも雇用される場合には、労働基準法38条1項に基づく労働時間の通算が問題となり、各使用者が労働者の申告等に基づいて他社での労働時間を把握し、時間外労働の上限規制や割増賃金を含めて管理する必要があります。長時間労働による健康障害、情報漏えい、顧客との利益相反、競業などへの対応も必要です。

一方、フリーランスや個人事業として行う副業は、通常、労働基準法上の労働時間通算の対象とはなりません。ただし、契約名称ではなく働き方の実態によって労働者性が判断されるため、「業務委託」と書けば必ず通算対象外になるわけではありません。また、非雇用型の副業でも、本業への支障、秘密保持、競業、健康確保といった問題は残ります。

本稿では、企業が副業・兼業制度を導入・見直しするときに、就業規則へ何を定め、どの情報を届出させ、労働時間・健康・秘密保持・競業・懲戒をどのように運用すべきかを、現行制度に即して整理します。

1.この記事が対象とする企業・担当者・場面

この記事は、次のような企業・担当者を主な対象としています。

  • 就業規則が「許可なく他社の業務に従事してはならない」という旧来型の規定のままである
  • 副業を認めたいが、届出制・許可制のどちらにすべきか迷っている
  • 従業員から副業申請があり、競合企業への勤務を認めてよいか判断したい
  • 副業先でも雇用される従業員の労働時間をどこまで把握すべきか分からない
  • 無断副業が発覚し、懲戒処分や副業の禁止を検討している
  • 副業による情報漏えい・顧客流出・利益相反を防ぎたい
  • 長時間の副業で遅刻、欠勤、体調不良等が発生している
  • 副業規定だけでなく届出書・確認フローまで整備したい

2.副業・兼業規制の基本:原則容認と必要な範囲の制限を分ける

副業・兼業の制度設計では、「会社が副業を認めるか」という抽象的な方針と、「どのような場合に具体的に制限できるか」を分けて考えることが重要です。

厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」は、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に労働者の自由であるという裁判例上の考え方を踏まえ、企業には、原則として副業・兼業を認める方向で検討することを求めています。そのうえで、企業の正当な利益や労働者の健康を守るために必要な場合には制限を認めています。

現在の厚生労働省「モデル就業規則(令和7年12月)」も、第70条で勤務時間外の副業・兼業を認め、届出に基づき一定の場合に禁止・制限できる構成を採用しています。したがって、実務では「全面禁止か完全自由か」の二択ではなく、「原則可+届出+必要な場合の制限」という枠組みが基本になります。

3.企業が副業・兼業を禁止・制限できる4つの場面

厚生労働省のモデル就業規則が示す制限事由は、次の4類型です。就業規則で副業を制限する場合も、このような具体的なリスクと結び付けて規定することが重要です。

制限事由企業が確認すべき事情実務上の着眼点
労務提供上の支障長時間労働、睡眠不足、遅刻・欠勤、疲労、法令上の労働時間上限への影響等単に「副業している」ことではなく、本業を適切に遂行できるかを確認する
企業秘密の漏えい顧客情報、技術情報、営業資料、ソースコード、未公表情報等へのアクセスや利用可能性副業先の業務内容と、自社でアクセスできる情報の重なりを具体的に見る
名誉・信用又は信頼関係への重大な影響会社名の不適切利用、違法・反社会的な業務、職務上の信用を大きく損なう行為等抽象的なイメージ低下ではなく、会社との信頼関係への具体的影響を整理する
競業による企業利益の侵害競合関係、顧客・取引先の重複、職務内容、営業活動、ノウハウ利用等「同業他社だから」という理由だけでなく、自社の正当な利益が実際に害されるかを確認する

この4類型は、副業を制限するための「入口」です。実際に禁止・制限するかは、従業員の職位、担当業務、副業内容、時間、会社への影響、情報アクセス権限などを踏まえて個別に判断する必要があります。

4.「許可制」よりも、届出を起点に制限事由を判断する仕組みを整える

4-1.届出の目的は、副業を選別することではなくリスクを把握すること

副業制度では、従業員が副業を始める前に会社へ届け出る仕組みを設けることが実務上重要です。届出がなければ、会社は副業先が雇用か業務委託か、労働時間がどの程度か、競合関係があるかを把握できず、労働時間管理や健康確保も困難になります。

そのため、届出制度の目的を「会社の裁量で副業の可否を選別するため」とするよりも、「必要な情報を把握し、法令遵守と4つの制限事由を確認するため」と位置付ける方が運用しやすくなります。

4-2.許可制を採る場合も、判断基準を明確にする

企業が許可制を採用すること自体が直ちに否定されるわけではありません。しかし、「会社が不適当と認めた場合は不許可」といった広すぎる規定だけでは、判断の一貫性を確保しにくく、従業員側から恣意的運用と受け取られる可能性があります。

許可制を採る場合でも、禁止・制限する基準、確認資料、判断期限、承認後に変更届が必要となる事項、承認を撤回できる場合を具体化しておくことが重要です。

4-3.無届であったことと、重い懲戒処分が相当かは別に検討する

就業規則に届出義務があるにもかかわらず無断で副業した場合、服務規律違反が問題になることはあります。ただし、届出をしなかったという形式面だけで直ちに重い懲戒処分が相当になるとは限りません。副業の内容、本業への支障、労働時間、秘密漏えい・競業の有無、隠していた経緯、会社からの是正指示への対応などを確認したうえで処分の必要性・相当性を判断します。

4-4.裁判例:許可制でも、個別の支障に即した判断が必要

京都地方裁判所平成24年7月13日判決(平成21年(ワ)第5151号)は、勤務時間外の時間は原則として労働者が自由に利用でき、兼業も原則として許されるべきであるとした一方、兼業により労務提供が不能・不完全となる場合や、企業秘密の漏えいなどにより経営秩序が乱される場合には、例外的に制限できるとしました。また、使用者が兼業による支障を合理的に判断するため、事前許可制を設けること自体も許されるとしています。

もっとも、許可・不許可の判断は、兼業を制限する趣旨に沿って具体的に行う必要があります。同判決では、トラック運転手のアルバイト申請について、長時間労働となる申請は不許可に合理性があるとする一方、週1回3~4時間の申請については、従前と異なる労働時間基準を持ち出したことや、法定休日であることだけを理由としたこと、同業他社であっても担当業務の相違から秘密漏えいの危険が具体化していないことなどを踏まえ、不許可に理由がないと判断しました。

この裁判例からも、許可制を採る場合に重要なのは、会社が広い裁量を持つことではなく、労働時間、休息、本業の職務、副業先の業務、秘密情報へのアクセス等を具体的に確認し、その申請ごとに説明可能な判断をすることだといえます。なお、本件では労使対立や不当労働行為意思も認定されており、すべての不合理な不許可が直ちに不法行為になることまで一般化することはできません。

4-5.裁判例:兼業禁止違反と解雇の相当性は別に判断される

広島地方裁判所昭和59年12月18日決定(昭和59年(ヨ)第380号)は、タクシー乗務員が非番日に月7~8回程度、輸出車の移送等のアルバイトをしていた事案です。裁判所は、就業規則上の無許可兼業禁止規定について、禁止対象となるのは会社の秩序を乱し、労務提供に支障を来すおそれのある兼業に限られるとしたうえで、本件アルバイト自体はその禁止対象に該当すると判断しました。

しかし、裁判所は、兼業禁止規定への違反があることと、解雇が相当であることを分けて検討しています。長期間にわたり相当数の従業員が同様のアルバイトをしていたこと、現実に労務提供へ支障が生じた資料がなかったこと、会社が具体的な指導・注意をしていなかったこと、本人が発覚後はアルバイトをやめていたこと、より軽い懲戒処分も就業規則に用意されていたことなどを踏まえ、直ちに行った解雇は過酷であり、解雇権の濫用として許されないとしました。

したがって、無断副業が就業規則違反に当たる場合でも、直ちに懲戒解雇・普通解雇が有効になるわけではありません。会社としては、実際の労務提供への影響、違反の継続性・悪質性、指導や是正の機会、過去の運用、他の従業員に対する処分との均衡などを確認し、処分の重さを個別に判断する必要があります。

5.雇用型と非雇用型の副業を最初に区別する

副業の届出を受けたときは、最初に副業先での法的な働き方を確認します。ここを区別しないと、労働時間通算の要否を誤りやすくなります。

副業の形態典型例労働時間通算主な確認事項
雇用型別会社の従業員・アルバイトとして働く原則として労働基準法38条1項による通算が必要契約期間、所定労働日・時間、所定外労働の見込み、実労働時間の報告方法
非雇用型個人事業、業務委託、請負等通常は労働基準法上の労働時間としては通算しない業務内容、稼働量、本業への支障、秘密保持・競業・利益相反

ただし、契約書に「業務委託」と記載されていても、指揮命令、拘束性、報酬の性質など実際の働き方から労働契約と評価される場合があります。名称だけで非雇用型と決め付けないことが重要です。

6.雇用型の副業では、労働時間を通算して管理する

6-1.「本業の会社だけが管理すればよい」わけではない

労働基準法38条1項は、事業場を異にする場合でも労働時間を通算すると定めており、行政通達では、事業主が異なる複数の事業場で雇用される場合も含むとされています。労働時間通算の対象となる副業・兼業については、副業をする労働者を使用する各使用者が、自社の労働時間と、労働者からの申告等により把握した他社の労働時間を通算して管理します。

したがって、「副業先の労働時間管理は副業先だけの責任」「本業側がすべて管理する」という整理はいずれも正確ではありません。自社が使用者である以上、自社の立場で必要な通算管理を行う必要があります。

6-2.届出時に確認しておきたい情報

厚生労働省のモデル就業規則の解説では、雇用型の副業について、契約締結日・期間、所定労働日・所定労働時間・始終業時刻、所定外労働の有無や見込み時間数、実労働時間等の報告手続、確認頻度などを確認することが考えられるとされています。

実務では、申請時に予定時間を確認するだけで終わらせず、「勤務条件が変わったとき」「所定外労働が一定時間を超えたとき」などの変更報告ルールも設けることが重要です。

6-3.所定労働時間と所定外労働時間で、通算の順序が異なる

現行の行政解釈では、まず各勤務先の所定労働時間を、労働契約を締結した先後の順序で通算します。通算した所定労働時間が法定労働時間を超える部分については、時間的に後から契約した使用者の労働時間が時間外労働となります。

さらに、所定外労働時間については、実際に所定外労働が行われる順に通算します。通算の結果、自社で働かせる時間が時間外労働となる場合には、自社の36協定や割増賃金の取扱いを確認する必要があります。

6-4.単月100時間未満・複数月平均80時間以内の上限も通算管理の対象になる

時間外労働と休日労働の合計について、単月100時間未満、複数月平均80時間以内とする上限規制の適用では、複数の使用者の下での対象労働時間を通算して管理する必要があります。副業制度を設ける際は、通常の勤怠管理とは別に、他社での労働時間情報を受け取る運用を用意しておく必要があります。

7.割増賃金と36協定:副業を認める前に運用方法を決める

雇用型副業では、労働時間を通算した結果、自社での労働が法定時間外労働となる場合、割増賃金や36協定が問題になります。特に「副業先では1日2時間しか働かないから時間外労働ではない」と自社の時間だけで判断しないことが重要です。

原則的な方法では、契約締結の先後と、実際に所定外労働が行われた順序を踏まえて法定時間外となる部分を判定します。そのうえで、各使用者は、自社で労働させる法定時間外労働について自社の36協定の範囲を確認し、必要な割増賃金を支払います。

7-1.「管理モデル」を利用する選択肢

日々、他社の実労働時間まで細かく把握して原則どおり通算することは、労使双方に負担となる場合があります。厚生労働省は、この負担を軽減するため、あらかじめ各勤務先で労働時間の上限を設定する「管理モデル」という簡便な管理方法を示しています。

管理モデルは、副業開始前に一定の上限を設定し、その範囲内で働かせることで、日々の他社実労働時間の把握負担を軽減する仕組みです。利用する場合には、どちらの使用者がどの範囲の労働時間・割増賃金を負担するかを理解し、労働者との間で取扱いを明確にしておく必要があります。厚生労働省は、管理モデル導入の通知様式例や合意書様式例も公表しています。

7-2.割増賃金の通算ルールは将来の制度改正にも注意する

副業・兼業における割増賃金の支払いに係る労働時間通算については、制度見直しの議論が続いています。しかし、現時点の制度では通算ルールが存在しており、検討中の見直しを先取りして運用を省略することはできません。副業制度を新設・改定するときは、その時点で施行されている法令・通達・ガイドラインを確認することが重要です。

8.長時間労働と健康確保:副業を認めることと放置することは違う

副業は労働者の自発的な選択で行われることが多い一方、会社が副業の状況を把握し、過重労働や健康障害のおそれを認識している場合には、何も対応しなくてよいわけではありません。労働契約法5条の安全配慮義務との関係でも、会社が把握している情報に基づき適切な措置を検討する必要があります。

厚生労働省のガイドラインは、副業開始時の確認だけでなく、副業開始後も労働者からの報告等により状況を把握し、健康状態に問題が認められた場合には適切な措置を講じることを求めています。

例えば、次のような対応を制度として用意しておくことが考えられます。

  • 副業の予定労働時間・稼働時間を事前に確認する
  • 雇用型副業では他社の実労働時間を定期的に申告させる
  • 長時間化した場合の追加報告基準を設ける
  • 疲労蓄積、遅刻・欠勤、パフォーマンス低下等があれば面談する
  • 必要に応じて自社の残業抑制、副業時間の調整、副業の一時的制限を検討する
  • 産業医・保健師等につなぐ基準を整える

副業を認める方針を採用していても、長時間労働によって本業の労務提供に具体的な支障が生じる場合や、使用者として法令上の義務を果たせないおそれがある場合には、必要な範囲で副業を制限することがあり得ます。

9.秘密保持・情報セキュリティ:副業先よりも「持ち出せる情報」を確認する

副業のリスクとして、企業秘密や個人情報の漏えいは重要です。ただし、単に「副業先が外部企業だから危険」と判断するのではなく、従業員が自社でどの情報へアクセスでき、副業先でどのような業務を行うのかを照合する必要があります。

特に、営業担当者、開発担当者、経営企画、財務、人事、情報システム担当者などは、顧客情報、価格・営業戦略、ソースコード、研究開発情報、未公表の経営情報、個人データ等に接する機会があります。副業規定だけでなく、秘密情報の定義、持出し禁止、私物端末・クラウド利用、外部サービスへの情報入力、退職・異動時のアクセス権管理など、既存の情報管理ルールとの整合を取ることが重要です。

また、「副業を始めたら秘密保持誓約書を出させる」だけでなく、副業届出時に業務内容と相手方の業種を確認し、具体的な情報衝突がある場合には担当業務の調整や追加の注意喚起を行う方が実効的です。

10.競業避止:同業他社で働くことだけで一律禁止しない

副業先が競合企業である場合、企業が慎重になるのは自然です。しかし、競業に関する制限は、会社の正当な利益を守るために必要な範囲で運用することが重要です。厚生労働省のガイドラインも、競業により自社の正当な利益を害する場合に制限できるとする一方、同一の業種・職種であっても自社の正当な利益を害しない場合には、原則として副業・兼業を認める方向で検討することを示しています。

実務では、次の事情を具体的に確認します。

  • 副業先と自社が実際に競合する商品・サービスを扱っているか
  • 従業員が自社の顧客・見込客へ副業先の商品を営業する可能性があるか
  • 自社の価格、顧客、技術、営業戦略等を副業先で利用できる立場か
  • 自社での職位・担当業務と副業先の職務がどの程度重なるか
  • 副業の規模、期間、地域、対象顧客等を限定すればリスクを下げられるか

「競合企業との副業はすべて禁止」とするより、禁止する競業行為を具体化し、利益相反や顧客奪取などの実質的なリスクを確認する仕組みの方が、説明可能性の高い制度になります。

11.会社の名誉・信用、信頼関係への影響

副業の内容が会社の名誉・信用を害する場合や、労使間の信頼関係を重大に損なう場合も、制限事由になり得ます。ただし、「会社として好ましくない」という抽象的な理由だけで広く制限すると、勤務時間外の活動を過度に拘束することになりかねません。

違法・反社会的な事業への関与、会社名・肩書を無断で利用して自社業務であるかのように表示する行為、自社の顧客・取引先との関係を意図的に悪用する行為など、会社への具体的影響を整理して判断することが重要です。

12.副業規定を就業規則へ入れるときの基本構成

副業・兼業に関する就業規則は、単に「副業を認める」「許可を受けること」と1条だけ置くのではなく、制度として必要な要素を組み合わせて設計します。

規定項目定めておきたい内容運用上の目的
基本方針勤務時間外の副業・兼業を原則として認めること制度の出発点を明確にする
事前届出開始前の届出、届出事項、変更時の再届出労働時間・競業・秘密保持等を把握する
禁止・制限事由労務提供上の支障、秘密漏えい、信用・信頼関係、競業等会社の判断権限を必要な範囲に限定する
労働時間報告雇用型副業の予定・実績時間、報告頻度、変更報告労基法上の通算管理と健康確保を行う
遵守事項秘密保持、情報持出し禁止、利益相反回避、会社資産の不使用等情報・競業リスクを具体的に管理する
中止・変更措置届出後に支障が生じた場合の是正指示・制限・停止事情の変化に対応する
服務・懲戒との関係虚偽申告、正当な指示違反等の取扱い形式違反と実質的問題を区別して運用する

なお、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、労働基準法89条により就業規則の作成・届出義務があります。就業規則を変更する場合には、過半数労働組合又は過半数代表者の意見を聴き、意見書を添えて所轄労働基準監督署長へ届け出、変更内容を労働者へ周知する必要があります。

また、副業禁止を新設するなど労働条件を不利益に変更する場合には、届出手続を済ませれば当然に有効になるわけではなく、労働契約法9条・10条に基づく就業規則変更のルールも検討する必要があります。

13.副業届出書で確認したい項目

届出書では、必要以上に私生活へ踏み込むのではなく、会社が法令遵守とリスク判断に必要な情報に絞ることが重要です。

  • 副業先の名称・事業内容
  • 雇用・業務委託・個人事業等の契約形態
  • 担当する業務内容
  • 契約開始日・終了予定日
  • 雇用型の場合の所定労働日・所定労働時間・始終業時刻
  • 所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数
  • 実労働時間の報告方法・報告頻度
  • 自社と競合する商品・顧客・取引先との関係
  • 自社情報・設備・アカウントを副業に利用しないことの確認
  • 届出内容が変更した場合の再報告義務

副業先の詳細な営業秘密まで提出させる必要は通常ありません。何を確認するのかを「労働時間管理」「健康確保」「秘密保持」「競業・利益相反」という目的に結び付け、取得情報を必要最小限にすることが重要です。

14.無断副業が発覚したときの対応フロー

無断副業が判明した場合は、「規則違反だから直ちに懲戒」という順序ではなく、事実と実際の影響を確認してから対応を決めます。

①就業規則・雇用契約上の副業規定と周知状況を確認する

②副業先、契約形態、業務内容、開始時期、稼働時間を確認する

③本業への支障、長時間労働、秘密漏えい、競業等の有無を確認する

④届出をしなかった理由について本人の説明を確認する

⑤必要であれば届出、労働時間報告、業務範囲変更等の是正を求める

⑥副業自体を制限する必要がある場合は、具体的な制限理由を示す

⑦懲戒を検討する場合は、違反の程度、会社への影響、故意、是正状況、過去の取扱いとの均衡を確認する

⑧調査・面談・判断理由を記録する

副業そのものに実質的な問題がないのに、届出違反だけを理由として極端に重い処分をすると、処分の相当性が争われる可能性があります。他方、競業、秘密情報の持出し、長時間労働に関する虚偽申告、会社の是正指示への反復違反などがある場合には、評価は異なります。

15.裁判例を確認するときに見るべきポイント

副業・兼業の裁判例は、就業規則に許可制・届出制が書かれていたかだけではなく、副業が本業や企業秩序へ実際にどのような影響を与えたかという具体的事実が重要になります。

裁判例を実務で参照するときは、少なくとも次の点を比較する必要があります。

比較軸確認事項実務上の意味
副業の内容業種、職務、頻度、時間、収入目的か事業経営か副業の負荷や企業への影響を評価する
本業への影響遅刻・欠勤、疲労、勤務成績、勤務中の副業等労務提供上の支障が具体的に存在するかを見る
秘密・競業情報持出し、顧客勧誘、競合業務、利益相反企業の正当な利益が侵害されたかを見る
規程と周知許可・届出規定の内容、禁止基準、従業員への周知形式的な義務違反の前提を確認する
会社の対応調査、本人聴取、是正指示、制限理由の説明会社の判断過程と措置の相当性を確認する
懲戒の重さ過去の処分、故意、反復性、会社への損害無断副業と処分のバランスを評価する

したがって、「無断副業なら解雇できる」「同業他社で働けば必ず競業違反になる」といった結論だけを他の事案へ当てはめるのは危険です。副業の種類と本業への具体的影響を比較する必要があります。

16.複数就業者の労災保険にも注意する

副業先でも雇用されている労働者が労災に遭った場合、現在の労災保険制度では、複数事業労働者について、原則として複数の就業先の賃金を合算して保険給付額の基礎とする仕組みがあります。

また、一つの勤務先だけの負荷では労災認定の基準に達しない場合でも、複数の勤務先における業務上の負荷を総合的に評価して「複数業務要因災害」として保険給付の対象となる制度があります。長時間労働や健康状態を把握することは、残業代管理だけでなく、労災・健康リスクの面でも重要です。

17.副業制度を導入・改定する実務フロー

副業制度は、就業規則の条文だけを作って終わりにすると、実際の申請時に判断が止まりやすくなります。次の順序で制度を整えると運用しやすくなります。

①現在の就業規則・雇用契約・秘密保持規程・情報セキュリティ規程を確認する

②副業の基本方針を「原則可+必要な範囲の制限」として整理する

③雇用型・非雇用型を区別した届出項目を作る

④禁止・制限する4類型と社内の判断基準を具体化する

⑤雇用型副業の労働時間通算方法を決める

⑥原則方式と管理モデルのどちらを利用するか検討する

⑦長時間労働時の報告・面談・制限基準を決める

⑧秘密保持・情報管理・競業の確認項目を設ける

⑨申請、承認・確認、変更届、定期報告の様式を整える

⑩就業規則変更の意見聴取・届出・周知を行う

⑪管理職・人事担当者に判断基準を共有する

⑫制度開始後の相談・変更・違反時の対応記録を残す

18.会社側で残しておきたい記録

副業に関するトラブルでは、会社がどの情報を把握し、なぜ承認・制限・是正をしたかを後から説明できることが重要です。

  • 副業届出書・変更届
  • 副業先での雇用条件・予定労働時間の申告
  • 実労働時間の定期報告
  • 管理モデルを採用する場合の通知・合意関係書類
  • 競業・利益相反の確認記録
  • 秘密保持・情報セキュリティ上の注意事項の通知
  • 長時間労働時の面談・健康確認の記録
  • 副業を禁止・制限した場合の具体的理由
  • 無断副業の調査資料・本人の説明
  • 是正指示・懲戒処分を行った場合の判断資料

19.弊所の実務上の視点:厳しい規定より「情報が上がってくる制度」を作る

副業規制では、就業規則を厳しく書けば会社のリスクが下がるとは限りません。全面禁止や裁量の広い許可制にすると、従業員が副業を申告せず、結果として会社が他社労働時間や健康状態を把握できないという逆効果が生じることがあります。

実務上は、副業を原則として届け出てもらえる制度にしたうえで、会社が本当に確認すべき情報を絞り、禁止・制限する場合の理由を具体化することが重要です。特に、雇用型副業については、届出書だけでなく、労働時間の定期報告と変更届が機能しなければ、制度として不十分です。

弊所では、副業規定を検討する際には、就業規則の1条だけではなく、届出フォーム、社内判断フロー、承認・制限の通知、労働時間報告、秘密保持・競業の確認事項まで一体として設計することが重要だと考えています。

また、競業や秘密保持が問題となる職種では、全従業員へ同じ禁止範囲を課すのではなく、情報アクセス権限や職務内容に応じて確認の深さを変える方が、実際のリスクに対応しやすくなります。

20.副業・兼業制度チェックリスト

  • 就業規則の副業規定が現在の方針と一致している
  • 勤務時間外の副業・兼業に関する基本方針を明確にした
  • 事前届出の対象と提出時期を定めた
  • 雇用型と非雇用型を区別している
  • 労務提供上の支障を禁止・制限事由として具体化した
  • 企業秘密の漏えいリスクを確認する仕組みがある
  • 会社の名誉・信用・信頼関係への重大な影響を確認できる
  • 競業による企業利益の侵害を具体的に判断できる
  • 雇用型副業の所定労働時間・所定外労働時間を把握できる
  • 他社の実労働時間を定期的に申告させる仕組みがある
  • 36協定・割増賃金を含む労働時間通算の運用を決めた
  • 管理モデルを利用するか検討した
  • 長時間労働時の面談・是正・制限基準がある
  • 秘密保持・情報セキュリティ規程と副業制度が整合している
  • 競合企業・顧客との利益相反を確認できる
  • 届出内容が変わった場合の変更報告義務を定めた
  • 無断副業が発覚した場合の調査手順がある
  • 懲戒を形式違反だけで機械的に決めない運用になっている
  • 就業規則変更時の意見聴取・届出・周知を行う体制がある
  • 副業に関する社内判断・面談・制限理由を記録している

21.FAQ

Q1.会社は副業を全面禁止できますか?

勤務時間外の時間利用は基本的に労働者の自由であるという考え方があり、厚生労働省のガイドラインも原則として副業・兼業を認める方向での検討を求めています。一律禁止ではなく、本業への支障、秘密漏えい、信用・信頼関係、競業等の具体的なリスクに応じて必要な範囲で制限する設計を検討すべきです。

Q2.副業は許可制と届出制のどちらがよいですか?

厚生労働省のモデル就業規則は届出を前提とし、一定の場合に禁止・制限できる構成です。許可制を採る場合も、会社の自由裁量だけで判断せず、許可・不許可の基準を具体化することが重要です。

Q3.無断で副業していた社員を懲戒解雇できますか?

無届という事実だけで直ちに懲戒解雇が相当になるとは限りません。副業内容、本業への支障、競業・秘密漏えい、故意、反復性、是正指示への対応等を確認し、就業規則上の根拠と処分の相当性を検討する必要があります。

Q4.副業先の労働時間は誰が管理しますか?

労働時間通算の対象となる雇用型副業では、副業をする労働者を使用する各使用者が、自社の労働時間と、労働者の申告等により把握した他社の労働時間を通算して管理します。

Q5.副業がフリーランスなら労働時間を通算しなくてよいですか?

真正な業務委託・個人事業としての稼働時間は通常、労働基準法38条の通算対象ではありません。ただし、契約名称ではなく実態で労働者性が判断されるため、実態が雇用であれば扱いが変わります。

Q6.同業他社での副業は必ず禁止できますか?

同業であることだけで一律に決まるわけではありません。担当業務、顧客の重複、情報アクセス、営業活動等を踏まえ、自社の正当な利益が具体的に害されるかを確認します。

Q7.副業先の会社名や勤務時間を聞いてもよいですか?

労働時間管理、健康確保、競業・秘密保持等の確認に必要な範囲で情報を求めることは実務上必要です。目的を明確にし、必要以上の私生活情報や副業先の営業秘密まで求めないようにします。

Q8.副業で長時間労働になっている場合、会社は副業を止めさせられますか?

長時間労働により本業の労務提供に支障が生じる場合や、健康障害のおそれ、労働時間規制への抵触等が具体的に認められる場合には、必要な範囲で制限を検討できます。まず労働時間と健康状態を確認し、より限定的な調整で対応できないかも検討します。

Q9.管理モデルを導入すれば、他社の労働時間を全く確認しなくてよいですか?

管理モデルは日々の実労働時間把握の負担を軽くする仕組みですが、導入条件や設定した上限の管理が必要です。副業開始時の情報確認、上限の設定、労働者との取扱いの共有は必要です。

Q10.副業中の労災は副業先の賃金だけで補償されますか?

複数事業労働者については、原則として複数の就業先の賃金を合算して労災保険給付額の基礎とする制度があります。また、複数の勤務先の負荷を総合評価する複数業務要因災害の仕組みもあります。

Q11.副業規定を変更すれば、すぐ従業員へ適用できますか?

常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則変更について労働者代表の意見聴取、労働基準監督署への届出、労働者への周知が必要です。さらに、不利益変更となる場合には労働契約法上の合理性も検討する必要があります。

Q12.今後、労働時間通算ルールが変わる可能性はありますか?

副業・兼業の割増賃金に関する通算の在り方は政府の審議会で見直しが議論されています。ただし、制度が改正・施行されるまでは現行ルールに従う必要があります。実際の運用時点の法令・通達・ガイドラインを確認してください。

22.弁護士への相談を早めた方がよい場面

次のような場合には、規程変更や処分を決める前に相談することを検討してください。

  • 現在の就業規則が副業全面禁止・広い許可制になっており見直したい
  • 副業届出書・社内審査基準を新たに整備したい
  • 競合企業への副業申請があり、禁止できるか判断したい
  • 顧客情報・技術情報を副業で利用している疑いがある
  • 無断副業が発覚し、懲戒処分を検討している
  • 副業による長時間労働、遅刻・欠勤、体調不良が発生している
  • 雇用型副業の労働時間通算・割増賃金の運用が複雑になっている
  • 管理モデルの導入を検討している
  • 副業規定の変更が従業員にとって不利益変更となる可能性がある
  • 副業を理由とする処分について従業員・労働組合から異議が出ている

23.まとめ

副業・兼業規制では、「全面禁止」「会社の許可がなければ一切不可」とするだけでは、現在の厚生労働省のガイドラインやモデル就業規則の考え方と整合しにくく、従業員から必要な情報が上がってこないという実務上の問題も生じます。

基本となるのは、勤務時間外の副業・兼業を原則として認め、事前届出により必要な情報を把握したうえで、労務提供上の支障、企業秘密の漏えい、会社の名誉・信用や信頼関係への影響、競業による企業利益の侵害が具体的に認められる場合に、必要な範囲で禁止・制限する仕組みです。

特に、別会社でも雇用される副業では、労働基準法38条1項による労働時間通算、36協定、割増賃金、長時間労働の健康管理を切り離して考えることはできません。届出書、労働時間報告、変更届、秘密保持・競業確認、違反時の対応を含め、実際に運用できる制度として整備することが重要です。

また、副業に関する紛争では、就業規則に何と書いてあるかだけでなく、副業が本業へどの程度の支障を生じさせたか、企業の正当な利益を具体的に害したか、会社がどのように調査・説明・是正を行ったかが重要になります。副業規定の導入・改定と個別案件の処分判断は分けて検討し、事実と記録に基づいて対応してください。

24.主要な裁判例・一次資料・公式情報

  • 京都地方裁判所平成24年7月13日判決(平成21年(ワ)第5151号)
  • 広島地方裁判所昭和59年12月18日決定(昭和59年(ヨ)第380号)
  • 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和4年7月8日改定)
  • 厚生労働省「『副業・兼業の促進に関するガイドライン』パンフレット」(令和7年3月31日改定版)
  • 厚生労働省「モデル就業規則」(令和7年12月)
  • 厚生労働省「副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第38条第1項の解釈等について」(令和2年9月1日基発0901第3号)
  • 厚生労働省「副業・兼業時の労働時間の通算解説資料」
  • 厚生労働省「副業・兼業の場合における簡便な労働時間管理の方法『管理モデル』」
  • 厚生労働省「副業・兼業に関する各種様式例」
  • 厚生労働省「労働者災害補償保険法の改正について~複数の会社等で働かれている方への保険給付が変わります~」
  • 厚生労働省「就業規則の変更はどのように行えばよいのでしょうか。」
  • 厚生労働省「労働基準法」
  • e-Gov法令検索「労働契約法」
  • 厚生労働省「労働政策審議会労働条件分科会」副業・兼業に関する検討資料・議事録