従業員との雇用関係を終了させる場面では、「解雇予告手当を払えば解雇できる」「契約期間が満了すれば有期契約は必ず終了する」といった理解は危険です。
無期雇用の解雇については、労働契約法16条により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には無効となります。また、有期労働契約の契約期間途中の解雇には「やむを得ない事由」が必要とされ、期間満了時の雇止めについても、更新状況や労働者の合理的な更新期待によっては、労働契約法19条の制限を受けます。
さらに、法的な有効性だけでなく、解雇予告、解雇理由証明、雇止めの予告、就業規則上の手続、本人への説明、証拠・記録の残し方も重要です。
本稿では、解雇・雇止めを検討する企業が、最終判断をする前に確認すべき法的枠組みと実務上のチェックポイントを整理します。個別裁判例の具体的な射程については、判例ごとに事実関係を確認する必要があります。
1.この記事が対象とする企業・担当者・場面
この記事は、次のような企業・担当者を主な対象としています。
- 能力不足・勤務態度不良を理由に普通解雇を検討している
- 重大な非違行為について懲戒解雇を検討している
- 経営上の理由から人員削減を検討している
- 試用期間満了時の本採用拒否を検討している
- 契約社員・パート等の有期契約を更新しない予定である
- 更新上限を新設・短縮したい
- 退職勧奨と解雇のどちらで進めるべきか迷っている
- 労働審判・訴訟を見据えて証拠や社内記録を整理したい
2.解雇・雇止めを判断する前に区別すべき5つの場面
| 終了類型 | 典型的な場面 | 主な法的枠組み |
|---|---|---|
| 普通解雇 | 能力不足・勤務態度等による一方的終了 | 労契法16条 |
| 整理解雇 | 経営上の人員削減 | 労契法16条+整理解雇の裁判例上の考慮要素 |
| 懲戒解雇 | 重大な非違行為への制裁 | 懲戒事由・相当性・社内手続 |
| 有期途中解雇 | 有期契約の途中終了 | 労契法17条1項の「やむを得ない事由」 |
| 雇止め | 期間満了時の更新拒絶 | 労契法19条・厚労省の雇止め基準等 |
雇用関係の終了という結果は同じでも、適用される法的ルールは異なります。特に、有期契約の「期間途中の解雇」と「期間満了時の雇止め」は分けて考える必要があります。
3.無期雇用の解雇:労働契約法16条の二段階で考える
3-1.客観的に合理的な理由があるか
労働契約法16条は、解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、権利濫用として無効になると定めています。
したがって、会社が「もう雇用継続は難しい」と考えているだけでは足りません。能力不足、勤務態度、業務命令違反、経歴詐称、非違行為、経営上の必要性など、会社が解雇理由として主張する事実が具体的に存在し、その事実を客観的資料で説明できるかを確認します。
3-2.社会通念上相当といえるか
解雇理由となる事実が存在しても、直ちに解雇が有効になるわけではありません。行為の程度、従業員の地位、過去の勤務状況、会社への影響、注意・指導の有無、改善可能性、他の従業員との処遇の均衡などを踏まえ、解雇という重い措置を選ぶことが相当かを検討します。
裁判では、単に「会社の就業規則に解雇事由が書かれているか」だけでなく、その規定を当該事案に適用して雇用を終了させることが妥当かという点まで問題になります。
4.能力不足・勤務成績不良による普通解雇
4-1.「期待した成果が出ない」だけで判断しない
能力不足による解雇では、会社が求めていた能力・成果の内容が明確だったか、本人がそれを認識できていたか、評価が客観的に行われていたかが重要です。
例えば、「営業成績が低い」「仕事が遅い」「管理職として能力不足」といった抽象的評価だけではなく、担当業務、目標、未達の内容、指摘した問題点、改善状況を具体化します。
4-2.注意指導・改善機会は事案に応じて評価される
能力不足解雇では、注意指導、教育、目標設定、業務内容の調整、配置転換等を行ったかが重要な事情になることがあります。ただし、すべての事案で同じ手順を踏まなければ解雇できないという一律のルールではありません。
高度な専門職として特定能力を前提に採用した場合と、新卒・若手社員の場合では、会社に期待される対応も異なり得ます。本人の職位、採用経緯、職務限定の有無、改善可能性を踏まえて判断します。
4-3.記録がない場合のリスク
「何度も注意した」と会社が説明しても、面談メモ、メール、評価記録、改善計画等が残っていなければ、後から経緯を立証することが難しくなります。
能力不足を理由に強い人事措置を検討する可能性がある場合は、問題が顕在化した段階から、具体的事実・指導内容・本人の回答・改善状況を継続的に記録することが重要です。
5.勤務態度・業務命令違反・非違行為による解雇
遅刻・欠勤、業務命令違反、職場秩序を乱す行為、秘密情報の持出し、不正行為等が問題となる場合には、まず事実確認を行います。
本人の説明を聞かず、周囲の申告だけで事実を確定すると、後に前提が崩れることがあります。メール、チャット、勤怠記録、防犯カメラ、社内システムのログ等を保存し、関係者へのヒアリングを行います。
また、普通解雇と懲戒処分は性質が異なります。懲戒として処分する場合には、就業規則上の懲戒事由・処分種類、手続、処分の相当性等を確認する必要があります。
5-1.非違行為を理由とする解雇では、調査と指導の経緯が問われる
東京地裁令和元年12月17日判決(平成29年(ワ)第20364号)は、営業部長に対する普通解雇の有効性が争われた事案です。会社は、勤務時間中の私用電話や馬券購入、部下への高圧的言動等を解雇理由として主張しました。
裁判所は、私用電話や勤務時間中の馬券購入の一部は非違行為に当たり得るとしつつ、会社が主張したその他の行為の大半について、事情聴取の記録や客観的な裏付けが乏しく、認定できないとしました。また、原告が長期間勤務し、それまで懲戒処分や注意・指導を受けた事実が見当たらないこと、会社が本人の言い分を十分確認する前から非違行為が存在することを前提に謝罪を求めていたこと、適切な指導や配置転換を含む人事措置が尽くされたとはいえないことなどを考慮し、解雇を無効と判断しました。
この裁判例からは、非違行為を理由に解雇する場合、社内で不満が多数出ているという事情だけでなく、個々の事実を客観的資料で確認し、本人の説明を踏まえて評価することが重要であると分かります。また、本件は「必ず一定回数の指導をしなければ解雇できない」としたものではありません。問題行為の内容、従業員の地位・勤続状況、改善可能性、代替措置等を含め、当該事案全体から解雇の合理性・相当性が判断されています。
6.懲戒解雇:就業規則の根拠だけでなく処分の重さを確認する
懲戒解雇は企業秩序違反に対する制裁として行われるため、普通解雇以上に慎重な検討が必要です。
主に確認するのは次の点です。
- 就業規則上、当該行為が懲戒事由として定められているか
- 就業規則が労働者へ適切に周知されているか
- 事実関係を客観的資料で確認できるか
- 本人の弁明・事情説明を確認したか
- 過去の類似事案と比較して処分が重すぎないか
- 行為の故意・過失、被害、会社への影響を整理したか
- 懲戒委員会等、社内規程上必要な手続を踏んでいるか
重大な不正が疑われる場合ほど、「早く処分しなければ」という判断になりがちですが、調査が不十分なまま懲戒解雇すると、事実認定と処分相当性の双方が争われる可能性があります。
7.整理解雇:いわゆる「4要素」を機械的なチェックリストにしない
経営上の理由による人員削減では、裁判例上、一般に次の事情が重視されます。
①人員削減の必要性
②解雇回避努力
③対象者選定の合理性
④手続・説明の相当性
これらはしばしば「整理解雇の4要件」又は「4要素」と呼ばれますが、常に4項目を独立した絶対的要件として機械的に判定するわけではなく、裁判例の事案によって評価の仕方は異なります。
企業側では、業績悪化の程度、将来予測、人件費削減の必要性、新規採用停止、役員報酬・経費削減、配置転換、希望退職募集等の実施、人選基準、労働者への説明・協議の経緯を資料化します。
「赤字だから整理解雇できる」「黒字ならできない」と単純に決まるものでもありません。経営上の必要性と、解雇という手段を選ぶ必要性の双方を説明できることが重要です。
8.試用期間満了時の本採用拒否
試用期間中であっても、会社が自由に契約を終了できるわけではありません。本採用拒否や試用期間中の解雇については、試用期間の趣旨、採用時に知ることができなかった事情、勤務状況、指導経緯等を踏まえて判断されます。
実務では、試用期間終了の直前になって初めて評価をまとめるのではなく、早い段階で本人へ問題点を伝え、必要に応じて改善目標・評価期間を設定します。
また、試用期間を延長する場合には、就業規則や雇用契約上の根拠、延長理由、期間、本人への説明を確認します。
9.有期労働契約の途中解雇は、無期雇用とは基準が異なる
有期労働契約については、労働契約法17条1項により、使用者は「やむを得ない事由」がある場合でなければ、契約期間が満了するまで労働者を解雇できないとされています。
したがって、有期契約の期間途中の解雇は、「普通の解雇と同程度の理由があればよい」と考えるべきではありません。契約期間を定めた以上、その途中で終了させなければならない事情があるかを慎重に検討します。
経営状況、本人の非違行為、業務継続可能性等を踏まえ、期間満了まで雇用を継続できない理由を具体化する必要があります。
10.雇止め:期間満了だから当然終了とは限らない
10-1.労働契約法19条が問題になる場合
有期労働契約は、原則として契約期間満了により終了します。しかし、過去に反復更新され、雇止めが無期契約の解雇と社会通念上同視できる場合や、契約が更新されると期待することに合理的な理由がある場合には、労働契約法19条が問題になります。
この場合、労働者から更新申込み等があり、使用者が更新を拒絶することに客観的合理性・社会的相当性が認められないときは、従前と同一の労働条件で契約が更新されたものと扱われます。
10-2.更新期待は「更新回数」だけで決まらない
更新期待を検討する際には、更新回数・通算期間だけでなく、契約書の記載、更新手続の実態、上司・採用担当者の説明、過去の更新状況、業務の恒常性、他の有期社員の扱いなどが問題になります。
契約書に「更新しない場合がある」と書くだけで、常に合理的期待を否定できるわけではありません。逆に、更新回数が多ければ必ず雇止めが無効になるというものでもありません。
10-3.更新期待は、契約締結から満了までの事情を総合して判断される
東京高裁令和4年9月14日判決(令和3年(ネ)第1941号)は、1年の有期雇用契約を4回更新し、直接雇用開始から5年で雇止めされた労働者について、労働契約法19条2号の合理的な更新期待の有無を判断した事案です。
同判決は、合理的な更新期待の有無について、雇用の臨時性・常用性、更新回数、通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続への期待を持たせる使用者の言動などの客観的事情を総合考慮するとしました。また、「契約期間満了時」の判断では、最初の有期契約の締結時から雇止め対象契約の満了時までの事情を総合的に見るとしています。
本件では、契約締結当初から更新期間の上限が明示され、担当者がその内容を説明し、労働者も5年を超えて更新されないことを認識していたことなどから、合理的な更新期待は認められませんでした。他方、判決は、反復更新の途中ですでに合理的な更新期待が形成された後に新たな更新上限を設ける場合には、労働者が自由な意思で受け入れ、既に生じていた期待が消滅したといえるかを慎重に判断すべき場合があるとも述べています。
したがって、企業実務では「更新上限を書いておけば足りる」と考えるのではなく、上限をいつ設定したか、どのように説明したか、それまでの更新実態や会社側の言動と矛盾していないかを確認することが重要です。なお、この判決は2024年4月の労働条件明示ルール改正前の事案であり、現在は、更新上限の新設・短縮時の理由説明等の現行ルールも別途確認する必要があります。
11.雇止めの30日前予告が必要な場合
厚生労働省の「有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準」では、一定の有期労働契約を更新しない場合、少なくとも契約期間満了日の30日前までの予告が必要とされています。
対象となるのは、契約を3回以上更新している場合、又は雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している場合で、あらかじめ契約を更新しない旨が明示されているものを除きます。
また、労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合には、使用者は遅滞なく交付する必要があります。
この「30日前予告」と、労働契約法19条による雇止めの有効性判断は別の問題です。30日前に通知しただけで、雇止めが当然に有効になるわけではありません。
12.2024年4月改正後は「更新上限」の扱いにも注意する
2024年4月から、有期労働契約の締結・更新時には、更新上限(通算契約期間又は更新回数の上限)の有無と内容を明示するルールが追加されました。
さらに、最初の契約締結後に更新上限を新設する場合や、既存の更新上限を短縮する場合には、その理由を労働者へあらかじめ説明する必要があります。
したがって、雇止め直前になって更新上限を設ける方法は、単に契約書を書き換えれば足りるものではありません。なぜ上限を変更するのか、これまでの説明・更新状況と整合しているかを確認する必要があります。
13.解雇予告手当と解雇の有効性は別問題
労働基準法20条は、原則として、労働者を解雇する場合には少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払うことを求めています。予告日数と手当を組み合わせることもできます。
しかし、このルールを守れば解雇が有効になるわけではありません。
| 論点 | 主な根拠 | 満たさない場合の主な問題 |
|---|---|---|
| 解雇予告・予告手当 | 労働基準法20条 | 手続違反・手当支払義務等が問題になる |
| 解雇の有効性 | 労働契約法16条等 | 要件を欠けば解雇は無効となり得る |
「30日分を払うので明日から来なくてよい」と通知しても、解雇理由について労働契約法16条の要件を満たさなければ、解雇が無効と判断される可能性があります。
14.解雇理由証明書を求められた場合
労働基準法22条により、労働者が解雇理由について証明書を請求した場合には、使用者は遅滞なく交付する必要があります。
解雇通知書、本人への説明、解雇理由証明書、後の労働審判・訴訟で会社が主張する内容に大きな食い違いがあると、会社の説明の信用性に影響することがあります。
そのため、解雇通知の時点で、会社がどの事実を解雇理由としているのかを整理しておくことが重要です。
15.退職勧奨と解雇をどう使い分けるか
退職勧奨は、会社が退職を提案し、労働者が自由意思で合意すれば雇用契約を終了する方法です。解雇のような一方的な意思表示とは異なります。
解雇の有効性に不確実性がある場合、退職条件を提示して合意退職を目指すことはあります。ただし、退職勧奨も無制限ではありません。長時間拘束する、何度も執拗に面談する、人格を否定する、退職に応じなければ不利益を与えると威圧するなど、自由な意思決定を妨げる進め方は問題となり得ます。
退職勧奨を行う場合は、提案理由、条件、面談回数・時間、本人に検討機会を与えたか、回答を強要していないか等を記録します。
16.裁判例を見るときに確認すべきポイント
解雇・雇止めに関する裁判例は非常に事実依存性が高いため、「同じ能力不足」「同じ雇止め」というだけで結論をそのまま当てはめることはできません。
裁判例を実務で参照するときは、少なくとも次の点を確認します。
| 比較軸 | 確認事項 | 確認する意味 |
|---|---|---|
| 問題事実 | 具体的行為・成果・被害・故意過失 | 解雇理由の重大性を比較するため |
| 指導・改善経緯 | 注意内容・回数・期間・本人の反応 | 改善可能性・会社対応の相当性を見るため |
| 代替手段 | 指導・配置転換・改善期間・軽い処分 | より軽い手段で対応できたかを見るため |
| 処遇の均衡 | 過去の類似処分・他従業員との比較 | 処分の重さが相当かを確認するため |
| 契約・更新実態 | 契約書・説明・更新回数・通算期間 | 更新期待・解雇相当性の判断に影響するため |
| 事業・組織背景 | 企業規模・職種・職位・業界 | 同じ結論を他社・他職種へ直結させないため |
特に、能力不足解雇について「教育をしたか」、整理解雇について「4項目を満たしたか」、雇止めについて「更新回数は何回か」だけを切り出すと、判例の射程を誤る可能性があります。
17.解雇・雇止めを検討する前の実務フロー
会社側で解雇・雇止めを検討するときは、結論から逆算するのではなく、次の順序で整理すると安全です。
①雇用形態・契約期間を確認する
②就業規則・雇用契約・労働条件通知書を確認する
③会社が問題視する具体的事実を列挙する
④客観資料を保全する
⑤本人の説明・反論を確認する
⑥過去の注意指導・評価・処分を確認する
⑦配置転換・改善期間・軽い処分等の代替手段を検討する
⑧解雇・雇止めの法的有効性を評価する
⑨予告・通知・社内手続を確認する
⑩退職勧奨を含む解決選択肢を比較する
⑪通知書・説明内容を統一する
⑫紛争化した場合に提出できる資料を整理する
「解雇すると決めてから理由を探す」のではなく、事実確認をしたうえで、解雇以外の対応も含めて比較することが重要です。
18.会社側で残しておきたい証拠・記録
解雇・雇止めでは、会社の主観的評価ではなく、後から確認できる記録が重要です。
- 雇用契約書・労働条件通知書
- 就業規則・賃金規程・懲戒規程
- 人事評価資料
- 注意書・指導メール・面談記録
- 本人が提出した報告書・始末書
- 勤怠記録
- 業務指示・成果物・ミスの記録
- ハラスメント・非違行為調査資料
- 配置転換・業務変更の検討記録
- 試用期間中の評価資料
- 有期契約の過去の契約書・更新通知
- 更新上限や更新基準の説明資料
- 経営資料・人員削減計画(整理解雇の場合)
- 希望退職・配置転換等の解雇回避措置の記録
- 本人への通知書・説明記録
19.弊所の実務上の視点:解雇案件は「最後の1枚」より前の数か月が重要
解雇案件では、最終的な解雇通知書の文言だけを整えても、法的リスクを十分に下げられないことがあります。
能力不足であれば、会社が何を期待し、何が不足し、いつ指摘し、本人がどう対応したか。勤務態度であれば、どの事実をいつ確認し、本人にどのような説明機会を与えたか。雇止めであれば、過去の契約書・説明・更新実態がどうなっていたか。こうした経過が後の判断材料になります。
弊所では、解雇の直前だけではなく、「このまま改善しなければ強い人事措置も検討する可能性がある」という段階から、事実と記録を整理しておくことが重要だと考えています。
また、会社が強い結論を望んでいる案件ほど、退職勧奨、配置転換、改善期間、処分等の代替案も含めて比較し、最終的に選択した方法の理由を説明できるようにすることが重要です。
20.解雇・雇止めチェックリスト
- 無期雇用・有期雇用のどちらか確認した
- 有期契約の場合、期間途中の解雇か満了時の雇止めかを区別した
- 雇用契約書・労働条件通知書を確認した
- 就業規則上の解雇・懲戒事由を確認した
- 解雇理由となる具体的事実を整理した
- 会社の評価だけでなく客観資料を確保した
- 本人の説明・反論を確認した
- 過去の注意指導・評価記録を確認した
- 改善機会を与える必要性を検討した
- 配置転換等の代替措置を検討した
- 他の従業員との処遇均衡を確認した
- 懲戒の場合、処分の相当性を確認した
- 整理解雇の場合、人員削減の必要性を資料化した
- 整理解雇の場合、解雇回避措置を検討した
- 整理解雇の対象者選定基準を確認した
- 試用期間の場合、採用後の評価記録を確認した
- 有期契約の過去の更新回数・通算期間を確認した
- 有期契約の更新基準・更新上限を確認した
- 更新上限を新設・短縮する場合の説明を行った
- 雇止めの30日前予告の対象か確認した
- 雇止め理由を具体的に説明できる
- 解雇予告・解雇予告手当を確認した
- 解雇理由証明書への対応を想定した
- 退職勧奨を行う場合、本人の自由意思を確保した
- 通知書と社内の解雇理由が一致している
- 労働審判・訴訟になった場合の証拠を整理した
21.FAQ
Q1.解雇予告手当を30日分払えば解雇できますか?
解雇予告手当と解雇の有効性は別問題です。労働基準法20条の手続を満たしても、労働契約法16条上、客観的合理性・社会的相当性が認められなければ解雇は無効となり得ます。
Q2.能力不足の社員を解雇できますか?
可能性はありますが、能力不足の内容、職位、採用経緯、評価基準、指導・改善経緯、配置転換可能性等を個別に確認する必要があります。
Q3.注意書を3回出せば解雇できますか?
回数だけで決まりません。注意の内容、問題行為の程度、改善状況、職務への影響等を総合的に確認します。
Q4.重大な不正があれば即日懲戒解雇できますか?
直ちに可能とは限りません。事実確認、就業規則上の根拠、処分相当性、社内手続、解雇予告除外の要件等を確認する必要があります。
Q5.懲戒解雇なら解雇予告手当は不要ですか?
懲戒解雇という名称だけで不要になるわけではありません。労働基準法20条の除外事由に該当するか、必要な認定手続を含めて別途確認が必要です。
Q6.試用期間中なら自由に解雇できますか?
自由ではありません。試用期間の趣旨、採用後に判明した事情、勤務状況、指導経緯等を踏まえて判断します。
Q7.試用期間を延長できますか?
就業規則・契約上の根拠や合理的理由が問題になります。漫然と延長するのではなく、延長理由・期間・評価項目を明確にすることが重要です。
Q8.赤字であれば整理解雇できますか?
赤字だけで自動的に有効になるわけではありません。人員削減の必要性、解雇回避努力、対象者選定、説明・協議等を含めて検討します。
Q9.黒字企業は整理解雇できませんか?
一律にはいえません。事業再編等を含む経営上の必要性と、解雇という手段の相当性を事案ごとに検討します。
Q10.有期契約は期間満了で必ず終了しますか?
必ずしもそうではありません。反復更新の状況や合理的な更新期待がある場合には、労働契約法19条により雇止めが制限されることがあります。
Q11.契約書に「更新しないことがある」と書けば雇止めできますか?
その記載だけで決まりません。過去の更新実態、会社の説明、業務の継続性等も含めて合理的な更新期待の有無を判断します。
Q12.更新上限を新しく設定すれば雇止めできますか?
直ちにそうなるわけではありません。2024年4月以降、更新上限を新設・短縮する場合には理由の事前説明が必要です。過去の説明・更新状況との整合性も確認する必要があります。
Q13.雇止めはいつ通知すればよいですか?
厚生労働省の雇止め基準では、3回以上更新している場合又は1年を超えて継続勤務している場合など一定の契約について、原則として満了日の30日前までの予告が必要です。
Q14.30日前に雇止め通知をすれば有効ですか?
予告手続と雇止めの実体的有効性は別です。労働契約法19条が適用される場合には、更新拒絶の合理性・相当性が問題になります。
Q15.有期契約の途中でも解雇できますか?
労働契約法17条1項により、「やむを得ない事由」がある場合でなければ、契約期間途中の解雇はできないとされています。
Q16.退職勧奨なら解雇規制を気にしなくてよいですか?
退職勧奨は合意による終了を目指す方法ですが、本人の自由な意思を妨げる強圧的・執拗な方法は問題となり得ます。
Q17.退職合意書を作れば紛争を完全に防げますか?
完全に防げるとは限りません。合意の成立過程、説明内容、本人の意思、清算条項の範囲等によって争いになることがあります。
Q18.解雇理由は後から追加できますか?
後の訴訟でどこまで主張できるかは事案によりますが、通知時点の説明と後の主張が大きく変わると会社の説明の信用性に影響することがあります。解雇時点で理由を整理しておくことが重要です。
Q19.本人が解雇理由証明書を求めてきた場合はどうしますか?
労働基準法22条に基づき、労働者が請求した場合には遅滞なく交付する必要があります。
Q20.解雇を検討し始めた段階で弁護士へ相談すべきですか?
強い人事措置に進む可能性がある場合は、解雇決定後ではなく、指導・評価・調査・配置転換等を検討している段階で相談した方が選択肢を確保しやすくなります。
22.弁護士への相談を早めた方がよい場面
次のような場合には、通知・面談を行う前に相談することを検討してください。
- 能力不足を理由に解雇を検討し始めた
- 問題社員への指導が長期化し、改善がみられない
- 懲戒解雇を検討する重大な非違行為が発生した
- 試用期間満了が近いが、本採用に迷っている
- 人員削減・事業撤退を予定している
- 有期契約社員の更新をしない予定である
- 更新上限を新設・短縮したい
- 退職勧奨の条件・面談方法を決めたい
- 労働組合・合同労組が関与している
- 従業員側の代理人弁護士から通知が届いた
- 労働審判・訴訟に発展する可能性が高い
23.まとめ
解雇・雇止めでは、会社が雇用関係を終了したいと考える理由があるだけでは足りません。無期雇用の解雇では労働契約法16条、有期契約の期間途中の解雇では同法17条、雇止めでは同法19条を中心に、就業規則、労働基準法上の手続、厚生労働省の雇止め基準等を確認する必要があります。
また、能力不足、懲戒、整理解雇、試用期間、雇止めでは、重視される事情が異なります。裁判例を参照するときも、事件名や結論だけではなく、職務内容、採用経緯、指導、更新実態、会社の対応等の事実関係を確認することが重要です。
企業側にとって最も重要なのは、解雇通知書を作る直前ではなく、その前の段階から事実・証拠・指導経緯を積み上げることです。解雇・雇止めを検討し始めた時点で、退職勧奨その他の代替策も含めて方針を整理することが、紛争予防につながります。
24.主要な裁判例・一次資料・公式情報
- 東京地方裁判所令和元年12月17日判決(平成29年(ワ)第20364号)
- 東京高等裁判所令和4年9月14日判決(令和3年(ネ)第1941号)
- 厚生労働省「労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)」
- 厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」
- 厚生労働省「有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準」
- 厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わりました」
- e-Gov法令検索「労働契約法」
- e-Gov法令検索「労働基準法」