IT/FinTech

2026年9月9日

金融庁ガイドライン・規制動向とIT/FinTech企業の対応

資金決済法改正、暗号資産規制、AML/CFT、サイバー、AIを横断して整理

IT・FinTech企業の規制対応では、金融庁が公表する資料を「新しい順に読む」だけでは十分ではありません。法律、政令・内閣府令、監督指針・事務ガイドライン、FAQ、分析レポート、ディスカッションペーパー、業界への要請などは、法的位置付けも、適用対象も、対応期限も異なるからです。

2026年は、資金決済法改正の施行、電子決済手段・暗号資産サービス仲介業の開始、暗号資産規制を金融商品取引法へ移す大きな制度改正、AML/CFTガイドラインの改正、ITレジリエンスやAIに関する金融庁資料の更新が相次いでいます。事業者側では、施行済みの義務と、成立済みだが施行準備中の制度、将来の監督実務を見据えるための資料を分けて管理する必要があります。

先に結論

金融庁対応で重要なのは、①自社の行為がどの登録・業規制に触れるか、②どの文書が自社に直接適用されるか、③施行日・適用日がいつか、④システム・契約・業務フローに何を実装するか、⑤その判断と対応を証拠化できるか、の5点です。「ガイドラインに書いてあるから法律上必須」「法改正が成立したから今日から全て適用」といった読み方は避ける必要があります。

1.金融庁資料は「法的階層」を分けて読む

金融庁のウェブサイトには、法令そのものから政策対話のための資料まで、多様な文書が掲載されています。同じ「金融庁が公表した資料」でも、違反時に直接行政処分等につながり得る法令と、監督上の着眼点を示す文書、政策検討の材料であるレポートやディスカッションペーパーでは意味が異なります。

文書の層主な役割実務上の読み方
法律・政令・内閣府令登録要件、行為規制、体制整備義務、禁止行為、報告義務等を定めるまず施行日と適用対象を確認し、自社の業務フローを条文に当てはめる
監督指針・事務ガイドライン監督・検査・登録審査等における着眼点や具体的運用を示す登録業者等は、自社の規程・運用・証拠が監督上の着眼点に対応しているか確認する
告示・Q&A・FAQ・法令解釈資料細目、例示、当局の解釈や実務運用を示す本文だけでなく改定日と対象条項を確認し、社内解釈メモに反映する
分析レポート・事例集障害・事故・モニタリング結果等から課題や傾向を示す直ちに法的義務と同一視せず、事故予防・統制高度化の材料として使う
ディスカッションペーパー新技術・制度について初期的論点や対話の視点を整理する将来の監督・ルール形成を見据える資料として利用し、法的義務と区別する
業界団体等への要請・注意喚起犯罪・事故等の局面で迅速な対策強化を促す対象業態と要請内容を確認し、既存統制のギャップを緊急点検する

したがって、「金融庁ガイドラインに書かれている=それ自体が法律上の義務」という整理は正確ではありません。他方で、登録業者等にとって監督指針や事務ガイドラインは、登録審査・モニタリング・検査・行政対応の実務で無視できない資料です。自社に適用される根拠法令と監督資料をセットで管理することが重要です。

1-1.裁判例から見る監督指針と行政処分の関係

東京地裁令和4年5月24日判決(令和元年(行ウ)第411号)は、第二種金融商品取引業者に対する登録取消処分の適法性が争われた事案です。原告は、ソーシャルレンディング型のファンド募集に際し、実際には存在しない貸付対象事業があるかのような表示や、根拠のない売上見込みを表示していました。裁判所は、これらを金融商品取引法・内閣府令上の禁止虚偽表示行為又は禁止誤解表示行為に当たると判断しました。

この事件で重要なのは、登録取消しという処分の重さを審査する際に、金融庁の「金融商品取引業者向けの総合的な監督指針」が具体的に用いられた点です。裁判所は、金融商品取引法52条1項が監督処分の要否・内容について処分行政庁に合理的な裁量を認めているとした上で、監督指針は行政処分の基準をあらかじめ明確にして公表することにより、公平性・透明性を確保するものと位置付けました。そして、その内容は合理的であるとして、取消処分が監督指針に従ってされたかという観点から裁量権の逸脱・濫用を審査しています。

具体的には、①行為の重大性・悪質性、②その背景となった経営管理態勢・業務運営態勢、③自主的な利用者保護対応等の軽減事由が検討されました。裁判所は、長期間・反復的な虚偽・誤解表示、多額の利用者被害、重大な確認不足、事後モニタリングの欠如、組織的な管理態勢の不備などを踏まえ、登録取消処分を適法としました。

この判決は、監督指針それ自体を法律と同じ法規範と扱ったものではありません。他方で、監督指針が公表された処分基準として、行政庁の裁量判断が合理的に行われたかを検証する際の重要な基準となり得ることを示しています。FinTech企業にとっては、法令の条文だけでなく、監督指針がどのような評価項目で重大性、管理態勢、軽減事由を見ているかまで把握し、自社の統制・記録・改善対応を設計しておくことが重要です。

2.2026年9月5日時点の主要な規制動向

2026年のIT・FinTech企業に特に影響が大きい動きを、施行状況とともに整理すると次のとおりです。

時期主な動き2026年9月5日時点の意味
2026年3月3日AIディスカッションペーパー第1.1版AI活用・リスク管理・ガバナンスの初期的論点。法令や一律の必須統制とは区別する
2026年3月31日AML/CFTガイドライン・FAQ改正同日適用。態勢の維持・高度化と実効性の確認が重要
2026年6月1日2025年改正資金決済法施行決済・ステーブルコイン・資金移動業等の改正が施行。新仲介業制度も開始
2026年7月15日金融商品取引法・資金決済法改正成立暗号資産を投資対象として扱う規制枠組み等を整備。中心部分は施行準備・移行管理が必要
2026年7月24日金融分野の個人情報保護ガイドライン改正公布2027年4月1日適用。将来対応として差分確認と実装計画が必要
2026年7月30日ITレジリエンス分析レポート公表障害防止だけでなく、サイバー・サードパーティを含む復旧力を重視
2026年8月6日暗号資産を用いた詐欺対策の強化要請口座開設、出庫、モニタリング、認証、情報共有等の対策高度化が監督上重要
2026年8月7日前後金融庁組織再編資金決済課、暗号資産・ステーブルコイン課等を新設。デジタル金融監督の専門化が進む
2026年8月12日2026年改正法の一部施行無登録業に対する罰則引上げ等の一部規定が先行施行

特に暗号資産については、「改正法が成立したこと」と「新しい業規制の中心部分が全面的に施行されていること」を混同しないことが重要です。契約書、利用規約、説明資料、システム仕様を改定する際は、現行法ベースの義務と、施行準備として先行対応する事項を区別します。

3.2025年改正資金決済法――2026年6月1日から何が変わったか

2025年に成立した資金決済法改正は、2026年6月1日に施行されました。改正は、電子決済手段・暗号資産、資金移動業、クロスボーダー収納代行等にまたがります。IT企業が決済機能を組み込む場合、「自社は金融事業者ではない」という事業上の呼称ではなく、実際に誰が資金・暗号資産等を受け、誰のためにどの行為を行うかで整理する必要があります。

3-1.電子決済手段・暗号資産サービス仲介業の開始

2026年6月1日から、電子決済手段等取引業者又は暗号資産交換業者の委託を受け、所属業者のために電子決済手段又は暗号資産の売買・交換の「媒介」のみを行う事業を対象とする、新たな仲介業制度が始まりました。従来のフルライセンス型の規制だけでなく、媒介に特化したビジネスモデルに応じた登録類型が用意された点が重要です。

もっとも、「紹介」「送客」「UI提供」「API接続」と称していても、利用者の注文成立にどこまで関与するかによっては媒介性が問題になります。ホワイトラベル型サービス、組込型金融、ウォレット・取引画面提供、ポイント・ステーブルコイン連携等では、契約書の肩書きだけでなく実際の画面・API・顧客導線まで確認すべきです。

3-2.ステーブルコイン・資金移動業も実装変更が必要になり得る

改正に伴う政令・内閣府令では、電子決済手段等取引業者や暗号資産交換業者に対する一定資産の国内保有命令、特定信託受益権の裏付け資産の運用範囲、資金移動業の新たな資産保全方法、第一種資金移動業の滞留規制の一定の緩和、クロスボーダー収納代行の適用関係などが具体化されています。

事業者側では、規制改正を「法務だけの対応」とせず、資金フロー図、分別・保全方法、委託先、口座構成、利用者への表示・説明、会計処理、障害時の返金・弁済まで一体で確認する必要があります。

確認質問実務上のポイント
誰が利用者と契約するか利用規約・約款の名義と、実際のサービス提供主体を一致させる
誰が資金・電子決済手段・暗号資産を受けるか受領・保管・移転の主体をデータフローではなく資産フローで可視化する
自社は注文成立にどこまで関与するか単なる広告・紹介か、売買・交換の媒介かを画面・API単位で確認する
資産保全はどの制度を使うか登録類型に応じた法定保全と、契約上の倒産隔離・返金設計を合わせる
委託・再委託は誰が行うかクラウド、KYC、ウォレット、カストディ、モニタリング等の委託先まで一覧化する

4.暗号資産規制――金融商品取引法への大きな制度移行をどう管理するか

2026年7月15日、暗号資産を含む制度整備を盛り込んだ金融商品取引法・資金決済法改正が成立しました。背景には、暗号資産が決済手段だけでなく投資対象として広く取引される中、情報提供、無登録業者への対応、投資助言、価格形成・取引の公正性、セキュリティ等の課題が顕在化したことがあります。

制度の方向性は、暗号資産を有価証券とは異なる金融商品として金融商品取引法に位置付け、暗号資産の売買等、投資運用・投資助言、情報提供、不公正取引等について金融商品取引法を中心とした枠組みに移していくものです。現行法上の暗号資産に該当しないNFTやステーブルコインは、この暗号資産規制見直しとは区別して検討されます。

4-1.成立直後の段階では「新法ベース」と「現行法ベース」を混ぜない

2026年9月5日時点では、改正法のうち無登録業に対する罰則引上げ等の一部規定は8月12日に施行されていますが、暗号資産規制の中心部分については施行準備・移行の段階です。したがって、現行サービスの適法性判断は現在施行されている法令で行いながら、新制度への移行計画を別途持つ必要があります。

特に、暗号資産取引、取扱銘柄、発行者情報、投資助言・情報発信、取引監視、インサイダー情報に相当する重要情報、カストディ・ウォレット、システム委託等の各機能について、新制度でどの規制がかかるかを分解して確認しておくことが重要です。

4-2.セキュリティは「交換業者だけ」の問題ではなくなる

制度見直しでは、暗号資産管理に関わる重要なシステム提供者への規制も検討・整備の対象となっています。ITベンダー、ウォレット基盤、鍵管理、インフラ提供等を担う企業は、金融事業者から求められる監査権、インシデント通知、再委託管理、脆弱性管理、BCP、ログ保全等が強まる可能性を前提に契約・運用を見直すべきです。

5.AML/CFT――「体制を作ったか」から「実際に効いているか」へ

金融庁は2018年にAML/CFTガイドラインを公表し、対象金融機関等に対してリスクベース・アプローチによる管理態勢を求めてきました。2024年3月末までに基礎的な態勢整備を完了させることが要請され、その後の監督では、構築した態勢が実際のリスク低減に機能しているかという実効性の確認と高度化がより重要になっています。

2026年3月31日にはAML/CFTガイドラインとFAQが改正され、同日から適用されました。FinTech企業では、KYCサービスや取引モニタリングツールを導入した事実だけではなく、どのリスクを想定し、どの閾値・シナリオで検知し、誤検知・見逃しをどう検証し、誰が判断したかまで記録できることが重要です。

論点チェックする証拠
リスク評価商品・顧客・国地域・チャネル別のリスク評価書、更新履歴
顧客管理本人確認記録、顧客リスク区分、継続的顧客管理の実施記録
取引モニタリングシナリオ、閾値、アラート件数、調査結果、チューニング記録
疑わしい取引判断過程、届出判断、エスカレーション、対応期限
モデル・外部ツールベンダー評価、精度検証、データ品質、変更管理
経営管理KPI/KRI、内部監査、取締役会等への報告、改善計画

5-1.詐欺対策はAML/CFTと別建てにしない

2026年8月、金融庁と警察庁は暗号資産を用いた詐欺被害等の拡大を踏まえ、業界団体に対して、口座開設時の不正防止、出庫制限・出庫先管理、取引・アクセス環境モニタリング、疑わしい取引検知後の迅速な顧客確認・取引制限、認証強化、情報共有等の対策強化を要請しました。

不正利用対策とAML/CFTを別々の部署・システムで管理すると、兆候が分断されることがあります。ログイン環境、入出金、端末、名義、暗号資産出庫先、顧客属性等を横断して見る体制と、法務・コンプライアンス・セキュリティ・CSの連携手順を設けることが実務上重要です。

6.サイバーセキュリティ――「防御」だけでなくITレジリエンスまで見る

金融庁は「金融分野におけるサイバーセキュリティに関するガイドライン」を公表しており、管理態勢、リスク特定、防御、検知、インシデント対応・復旧、サードパーティリスク管理等を体系的に整理しています。金融サービスのクラウド化・API化が進むほど、金融事業者単体のセキュリティだけでなく、委託先・再委託先を含むサービスチェーン全体の管理が必要になります。

さらに金融庁は2026年7月30日、ITレジリエンスに関する分析レポートを公表しました。近年の地政学リスク、サイバーリスク、サードパーティリスクや、金融サービスのIT依存度の高まりを踏まえ、「障害を起こさない」だけでなく、障害や攻撃が発生しても重要業務を復旧・継続できる設計が重要になっています。

設計項目契約・運用で確認する事項
重要業務・依存関係重要サービス、システム、データ、クラウド、外部API、再委託先のマッピング
復旧目標RTO/RPO、優先順位、手動代替、バックアップ復元手順
インシデント連携通知期限、緊急連絡先、初報・続報・原因分析、当局報告支援
サードパーティ管理監査権、セキュリティ基準、再委託、変更通知、脆弱性対応
出口戦略データ返還・削除、移行支援、設定・ログの持出し、サービス終了時の継続性
演習・検証机上演習、復旧テスト、バックアップ検証、改善事項の期限管理

7.AI――ディスカッションペーパーを「必須ルール」と誤読しない

金融庁は2026年3月3日、AIディスカッションペーパー第1.1版を公表しました。これは、金融機関等におけるAIの活用実態、リスク管理・ガバナンスの取組事例、規制の適用関係の明確化が必要な場面等を整理し、今後の対話と政策検討につなげるための資料です。金融庁自身も分析は初期段階であり、技術革新やビジネス環境により論点が変わり得るとしています。

したがって、ディスカッションペーパーの記載を一律の法的義務として規程化するのではなく、自社のAIユースケースに応じて、既存の金融規制、個人情報保護、委託先管理、顧客説明、モデルリスク、セキュリティ等に落とし込むことが適切です。

AI利用の局面実務対応例
導入前ユースケース登録、利用目的、顧客影響、利用データ、外部モデル・APIの審査
設計・検証精度・バイアス・幻覚、個人情報・機密情報、プロンプトインジェクション、ログ設計の確認
顧客向け提供AI利用の説明、誤回答時の救済、人による確認が必要な場面の設定
運用後出力モニタリング、モデル・仕様変更、インシデント、ベンダー変更の再評価
ガバナンス責任者、承認権限、例外管理、監査、廃止基準、記録保存

8.個人情報保護――2027年4月1日適用の改正を先回りして確認する

個人情報保護委員会と金融庁は2026年7月24日、「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」の一部改正を公布し、2027年4月1日から適用するとしています。2026年9月時点では将来適用の改正であるため、現在の法令・ガイドラインに従った運用を続けつつ、改正後の要件とのギャップを洗い出して実装期限を設定するのが適切です。

個人情報対応はプライバシーポリシーの改訂だけでは完結しません。顧客情報を扱うAPI、KYC、AML、クラウド、コールセンター、AI、分析基盤等について、取得、利用、提供、委託、アクセス権限、保存期間、漏えい対応までデータフローを確認し、法務文書とシステム設定を一致させる必要があります。

9.登録の有無は「会社名」ではなく「行為」で確認する

FinTechでは、同じサービス画面の中に、決済、送金、暗号資産、電子決済手段、金融商品、投資助言、広告・紹介、本人確認等の機能が組み込まれることがあります。事業者が自ら「テック会社」「SaaS会社」「プラットフォーム」と呼んでいても、行為規制の対象外になるわけではありません。

新規提携やホワイトラベル提供の前には、金融庁の登録業者一覧等で相手方の登録状況を確認するだけでなく、その登録が今回委託・連携する業務をカバーしているか、海外事業者の場合に日本で無登録業とならないか、再委託や顧客対応の分担が登録上の前提と整合するかを確認します。

  • 契約当事者の法人名・登録番号・登録業種を確認する
  • 登録の対象業務と、今回のサービス機能を突合する
  • 利用者資産・個人情報・認証情報を誰が保持するか確認する
  • 広告・勧誘・説明・受注・約定・カストディ等の役割分担を確認する
  • 再委託・海外拠点・グループ会社の関与を確認する

10.金融庁の「新着情報」を運用に落とす方法

規制更新リスクが高い分野では、「年1回まとめて法改正を確認する」だけでは不十分です。一方、金融庁の全公表資料を毎日読むのも現実的ではありません。そこで、自社に関係する登録類型・サービス・技術領域をタグ化し、変更管理台帳を運用する方法が有効です。

管理項目記載例
文書名・発出主体改正法、内閣府令、監督指針、事務ガイドライン、FAQ、要請等
公表日・公布日2026年7月24日など
施行日・適用日即日/2027年4月1日/政令日など
対象業態・機能資金移動、暗号資産、AI、KYC、クラウド等
影響箇所利用規約、契約、システム、業務規程、説明資料、教育等
対応責任者・期限法務、コンプラ、プロダクト、セキュリティ等
証拠審査メモ、取締役会資料、改修チケット、テスト結果、改定規程

更新頻度は一律に決めるより、月次の新着確認、四半期の規制台帳レビュー、法案成立・政省令公布・行政処分・重大事故等をトリガーとする臨時レビューを組み合わせると運用しやすくなります。

11.実務で避けたい7つの誤解

誤解正しい整理
金融庁ガイドラインはすべて法律と同じ法的性質は文書ごとに異なる。法令と監督上の着眼点、政策資料を分ける
法改正が成立すれば、その日から全て新制度施行日・経過措置・一部先行施行を確認する
登録業者と組めば自社は規制対象外自社が実際に行う媒介・勧誘・受注・保管等の行為を別途評価する
AMLツールを導入すれば対応完了リスク評価、継続的顧客管理、アラート検証、経営管理まで含め実効性を確認する
クラウド契約にセキュリティ条項があれば十分復旧、再委託、インシデント、出口戦略、演習まで運用する
AIディスカッションペーパーの項目は全て必須初期的論点整理として読み、既存法令と自社リスクに応じて実装する
法令対応は法務部だけで完結するプロダクト、システム、CS、財務、セキュリティ等の業務変更まで落とし込む

12.IT/FinTech企業の規制対応フロー

  1. サービスの資金・データ・注文・契約フローを図にする。
  2. 各機能について、資金決済法、金融商品取引法、銀行法等の登録・行為規制を確認する。
  3. 適用される監督指針、事務ガイドライン、FAQ、業界ルールを特定する。
  4. 公表日と施行日・適用日を分け、現行対応と将来対応を別タスクにする。
  5. 規程・契約・利用規約・表示・システム・業務フローの変更点を洗い出す。
  6. テスト、研修、委託先確認、取締役会等の承認を実施し、証拠を保存する。
  7. 施行後もKPI/KRI、事故、苦情、行政処分、新着情報をもとに定期的に見直す。

13.規制対応チェックリスト

  • 自社の全サービスについて登録・届出・許認可の要否を機能単位で整理している
  • 2026年6月1日施行の改正資金決済法の影響を確認した
  • 電子決済手段・暗号資産サービス仲介業に該当し得る媒介機能を確認した
  • 2026年金融商品取引法等改正の現行施行部分と将来施行部分を分けている
  • 暗号資産関連サービスについて新制度への移行タスクを作成している
  • AML/CFTのリスク評価と顧客リスク区分を定期更新している
  • 取引モニタリングの閾値・シナリオについて有効性検証を行っている
  • 詐欺・不正利用対策とAML/CFT・セキュリティの情報連携がある
  • サイバーセキュリティガイドラインとのギャップを確認している
  • 重要サービスのRTO/RPOと復旧手順を定め、テストしている
  • クラウド・API・KYC等のサードパーティと再委託先を一覧化している
  • AIユースケースを台帳化し、導入前審査と運用後モニタリングを行っている
  • AIディスカッションペーパーと法的義務を区別して社内説明している
  • 2027年4月1日適用の金融分野個人情報保護ガイドライン改正を確認している
  • 提携先の登録状況を金融庁の公表情報で確認している
  • 規制変更台帳に公表日・施行日・責任者・対応期限を記録している
  • 法務判断だけでなくシステム改修・業務変更・研修まで完了を確認している
  • 対応の根拠となる審査記録・承認・テスト結果を保存している
  • 監督指針上の評価項目に照らし、重大性・管理態勢・軽減事由を説明できる記録を残している

14.よくある質問

Q1.金融庁のガイドラインは法律と同じように必ず守らなければなりませんか?

文書ごとに法的位置付けが異なります。法律・府令等は直接の法規範ですが、監督指針・事務ガイドラインは監督上の着眼点等を示すものです。もっとも、登録業者にとって監督実務上重要であり、自社が対応しない場合には合理的な説明と代替統制を含め検討する必要があります。

Q2.2026年の暗号資産規制はもう金融商品取引法に完全移行しましたか?

いいえ。改正法は成立し、一部規定は施行されていますが、2026年9月5日時点で暗号資産規制の中心部分は施行準備・移行段階です。現行法の遵守と、新制度への準備を分けて管理します。

Q3.電子決済手段・暗号資産サービス仲介業はどのような事業向けですか?

所属する電子決済手段等取引業者又は暗号資産交換業者から委託を受け、そのために電子決済手段又は暗号資産の売買・交換の媒介のみを行う事業を想定した登録制度です。実際のUIやAPIが「媒介」に当たるかは個別に確認が必要です。

Q4.AML/CFTはeKYCと取引モニタリングを導入すれば十分ですか?

十分ではありません。リスク評価、継続的顧客管理、疑わしい取引の判断、モデルやルールの有効性検証、経営陣への報告、内部監査等を含め、実際にリスクを低減できているかが重要です。

Q5.金融庁のAIディスカッションペーパーはAI利用時の必須基準ですか?

一律の法的必須基準ではありません。金融庁がAI利用の現状・リスク管理・ガバナンス等について初期的な論点を整理し、対話を進めるための資料です。既存法令や自社リスクに照らして必要な統制を設計します。

Q6.FinTechのシステムを金融機関にSaaS提供するだけでも金融規制を意識すべきですか?

はい。SaaS提供自体が金融業の登録を要するとは限りませんが、金融機関の委託先・重要なサードパーティとして、セキュリティ、障害対応、再委託、監査、データ管理、出口戦略等について高い水準を契約上求められることがあります。

Q7.法改正対応はいつから始めればよいですか?

成立後すぐに影響分析を行い、政省令・監督指針等が具体化するたびにタスクを更新するのが基本です。施行直前に利用規約だけ変えるのではなく、システム・業務・委託先・研修まで逆算して実装します。

Q8.規制改定を見落とさないための最小限の仕組みは何ですか?

金融庁の新着情報等を定期確認し、自社に関係する登録類型・サービス領域をタグ化した規制変更台帳を持つ方法が有効です。公表日と施行日を分け、責任者・対応期限・証拠を記録します。

Q9.監督指針に書かれた事項に反すると、直ちに行政処分を受けますか?

直ちにそうなるわけではありません。行政処分の根拠は法令上の要件にあります。他方、東京地裁令和4年5月24日判決(令和元年(行ウ)第411号)は、金融商品取引業者への登録取消処分について、監督指針が処分基準を明確化し公平性・透明性を確保するものとして、その内容に沿って処分がされたかという観点から裁量権の逸脱・濫用を審査しました。したがって、登録業者等は、監督指針を単なる参考資料として無視するのではなく、監督上の評価項目に対応できる態勢と記録を整えておく必要があります。

15.主な一次資料

まとめ

金融庁の規制動向を追う際には、「何が新しいか」だけでなく、「どの文書が、誰に、いつから、どの程度の法的・監督上の意味を持つか」を分けて読む必要があります。2026年は、改正資金決済法の施行と新仲介業制度の開始、暗号資産規制の金融商品取引法への移行準備、AML/CFTの実効性重視、ITレジリエンス、AIガバナンス、将来の個人情報保護対応が同時に進んでいます。

IT・FinTech企業では、法令・監督資料を法務部だけで管理するのではなく、プロダクト、エンジニアリング、セキュリティ、コンプライアンス、CS、経営管理まで含む変更管理に落とし込むことが重要です。特に新規事業や金融機関との提携では、サービス開始後に登録要否や監督上の論点が判明すると、事業モデル自体の修正が必要になることがあります。企画段階で資金フロー・契約関係・システム構成を整理し、適用法令と監督資料を確認することが有効です。

弊所では、FinTechサービスの新規事業、資金決済法・金融商品取引法等の適用関係、利用規約・業務委託契約、金融機関との提携契約、規制改定に伴う社内規程・業務フローの見直しなどについてご相談をお受けしています。事業スキームの設計段階から法務・規制対応を整理したい場合は、ご相談ください。

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