企業法務

2026年10月26日

海外贈収賄防止法(FCPA・UKBA)と日本企業のリスク対策

「現地慣行」や代理店任せにせず、支払・第三者・会計・調査を一体で管理する

海外事業では、「現地では普通の支払だから問題ない」「代理店が払ったので自社には関係ない」という説明は通用しないことがあります。日本の不正競争防止法、米国のFCPA(Foreign Corrupt Practices Act)、英国のBribery Act 2010(UKBA)は、それぞれ適用範囲・対象行為・企業責任の仕組みが異なり、一つの支払について複数国の規制が重なることもあります。

また、贈収賄リスクは現金の手渡しだけではありません。接待・贈答、旅行、寄付、スポンサー、採用、コンサルティング料、成功報酬、通関・許認可に伴う少額支払などが、相手、目的、時期、金額、承認・記録のされ方によって問題になります。実務では「いくらまでなら安全か」という一律の金額基準ではなく、誰に、何の目的で、どの経路から、どのような証憑で支払うのかを管理する必要があります。

先に結論

海外贈収賄対策の中心は、①適用法を把握する、②政府・国有企業等との接点を特定する、③代理店・コンサルタント等の第三者をリスクベースで審査する、④接待・贈答・寄付・成功報酬等を事前承認する、⑤支払内容を正確に会計記録へ残す、⑥疑義が出たら支払停止・証拠保全・調査を迅速に行う、という一連の運用です。契約書に贈賄禁止条項を入れるだけでは不十分です。

1 日本法・FCPA・UKBAは「同じ贈賄規制」ではない

最初に、どの法令がどの会社・個人・取引に適用され得るかを分けます。日本企業だから日本法だけを見ればよいわけではなく、米国上場・SEC報告、米国内での行為、英国での事業活動、海外子会社・代理店の所在等によって外国法の検討が必要になります。

制度 主な対象・特徴 日本企業が特に確認する点
日本・不正競争防止法 国際商取引に関し、営業上の不正の利益を得る目的で外国公務員等へ不正の利益を供与・申込み・約束する行為を禁止。第三者経由も問題になる。 日本企業の役職員による海外での行為、外国人従業員、代理店経由の支払を含め確認する。
米国・FCPA Anti-bribery provisionsと、issuerに対するbooks and records/internal controlsの会計規制を持つ。issuers、domestic concerns、一定の外国人・外国企業等が対象となり得る。 米国上場・SEC報告の有無、米国内の行為・送金等、米国企業との関係、第三者・JVを含む関与を確認する。
英国・UKBA 公務員贈賄だけでなく一般の贈賄・収賄も対象。Section 7はassociated personによる贈賄を防止できなかったrelevant commercial organisationの企業責任を規定。 英国法人だけでなく、英国で事業の全部又は一部を行う外国法人もSection 7の対象となり得る。adequate proceduresが重要。

したがって、グループ共通ポリシーは「FCPAに違反しなければよい」という作りではなく、適用され得る法令のうち厳しいルールにも耐えられる共通基準を設け、現地法で追加対応する構造が実務的です。

2 日本法は2024年改正で罰則・国外適用が強化されている

日本の不正競争防止法18条は、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るため、外国公務員等に対し、その職務に関する行為をさせる・させない等を目的として金銭その他の利益を供与し、又は申込み・約束することを禁止しています。対象となる「外国公務員等」には、外国政府・地方公共団体の職員だけでなく、一定の政府関係事業者や国際機関の職員等も含まれます。

2-1 「公務員か分からない相手」を放置しない

海外では、病院、エネルギー、通信、インフラ、金融等で政府関与の強い企業が取引相手になることがあります。名刺上は民間企業の社員に見えても、国有・政府支配企業の位置付けが問題になる場合があります。営業部門だけで判断せず、法人の所有関係、法的地位、政府から付与された権限等を確認できる運用にしておくことが重要です。

2-2 2024年4月施行の改正を旧基準のまま運用しない

2023年改正は2024年4月1日に施行され、外国公務員贈賄罪の法定刑が強化されました。経済産業省の整理では、自然人は10年以下の拘禁刑又は3,000万円以下の罰金(併科あり)、法人両罰は10億円以下の罰金とされています。また、日本企業の外国人従業員が海外で単独で行う贈賄行為についても処罰対象を拡大する改正が行われています。海外子会社・現地採用社員を「日本法の対象外」と決めつけないことが必要です。

2-3 関連裁判例:外国公務員への支払と社内意思決定

最高裁令和4年5月20日判決(令和2年(あ)第1135号)は、タイの火力発電所建設工事で、許可条件上は接岸できない大型はしけを仮桟橋へ接岸させるため、現地港湾当局の公務員から金銭を要求された事案です。社内では上級管理職に判断が上げられ、被告人の判断を仰ぐまで支払手続が一旦停止されましたが、その後手続が再開され、公務員本人に1,100万タイバーツ(当時約3,993万円)が供与されました。

最高裁は、被告人の「仕方ないな。」という発言だけを取り出して共謀を認定したのではありません。被告人の地位・立場、供与について相談を受けるに至った経緯、二度の会議での言動、その後に供与が実行された経過等を総合考慮し、被告人が供与を了承して意思決定に関与したとして共謀の成立を認めた第1審判断を是認しました。したがって、上司が曖昧な発言をすれば直ちに共同正犯になるという判決ではなく、具体的な権限・相談経緯・言動・実行過程が総合的に評価された事例として理解する必要があります。

また、東京地裁平成27年2月4日判決(平成26年(特わ)第970号・第1092号)は、ベトナム、インドネシア、ウズベキスタンの鉄道関連事業をめぐり、外国公務員等への金銭供与が長期間・多数回にわたり行われた事案です。裁判所は、入札、契約締結、契約変更、契約代金支払という事業の一連の流れの中で賄賂供与が常態化し、公務員との交渉、現金の準備・運搬、経理処理等を複数の者が分担していたことから、組織的・計画的な犯行と評価しました。被告会社には罰金9,000万円が科され、役員らにも執行猶予付き懲役刑が言い渡されています。

同判決では、国税局の税務調査で賄賂供与が発覚した後も、経営判断で供与を継続し、その対応のためのマニュアルまで作成していた点が、法令遵守意識の乏しさとして厳しく評価されました。また、経理責任者についても、会社資金の不正流出を防止すべき立場にありながら、賄賂資金の拠出に協力したことが責任評価の対象となっています。

これらの裁判例からは、公務員から不適切な支払要求を受けた段階で現場判断を止め、法務・コンプライアンスへエスカレーションし、正規手続や代替案を検討した上で、誰が支払可否を決めるのかを明確にすることが重要だと分かります。さらに、営業部門だけでなく経理・財務を支払のゲートキーパーとして機能させ、会議・承認・代替案検討の経過を記録し、疑義が具体化した後は追加支払を停止する運用が重要です。納期遅延や巨額の事業損失が見込まれる事情があっても、それだけで違法な利益供与が正当化されるわけではありません。

3 FCPAは「公務員への支払」だけでなく会計記録も重要になる

FCPAのanti-bribery provisionsは、米国のissuers、domestic concerns、一定の外国人・外国企業等に適用されます。DOJ・SECのResource Guideは、外国人・外国企業についても、米国内で贈賄の促進行為を行う場合等にterritorial jurisdictionが問題になると整理しています。具体的な適用は事実関係に左右されるため、「米国法人ではないから関係ない」とは判断できません。

3-1 issuerではbooks and records/internal controlsを別論点として見る

FCPAには、issuerに対し取引を合理的な詳細さで正確・公正に記録するbooks and recordsと、適切なinternal accounting controlsを求める会計規定があります。例えば、実際には公務員への不適切な利益提供を含む支出を「コンサル料」「マーケティング費」「出張費」とだけ処理すれば、贈賄の成否とは別に会計記録・内部統制上の問題につながり得ます。

そのため、米国上場等が関係する企業では、法務だけでなく経理・財務・内部監査を贈収賄防止体制に組み込み、支払の目的、契約、請求書、役務証拠、承認者、銀行口座を追跡できるようにします。

3-2 2025年のFCPA執行ガイドラインは「FCPAがなくなった」という意味ではない

米国DOJは2025年6月にFCPAの調査・執行ガイドラインを公表し、米国の利益に直接関係する重大な事案へ重点を置く方針を示しました。2025年のDOJ資料では、カルテル・国際犯罪組織との関係、米国企業の競争機会の侵害、米国の国家安全保障、重大な贈賄・隠蔽等が優先事項として示されています。これは執行優先順位の指針であり、FCPAの条文やSECの権限が消滅したものではありません。日本企業の社内ルールを緩める根拠として扱うべきではありません。

4 UKBAは民間贈収賄と「failure to prevent bribery」に注意する

UKBAは、公務員への贈賄だけでなく、一般的な贈賄・収賄も規制します。さらにSection 7は、relevant commercial organisationのために事業又は事業上の利益を獲得・維持する意図で、associated personが贈賄を行った場合に、企業側のfailure to prevent briberyを問題とします。associated personは肩書だけで決まらず、企業のためにサービスを行う者かどうかを実態で判断し、従業員・代理店・一定の子会社等が含まれ得ます。

4-1 adequate proceduresは六つの原則で考える

原則 実務への落とし込み
Proportionate procedures 国・業種・公務員接点・第三者利用・取引金額等に応じて統制の強さを変える。
Top-level commitment 経営陣が方針を承認し、営業目標より法令遵守を優先する姿勢と停止権限を示す。
Risk assessment 進出国、公共調達、許認可、通関、国有企業、第三者報酬等を定期的に評価する。
Due diligence 代理店、コンサル、JV相手、M&A対象等をリスクに応じて確認する。
Communication / training 規程を配るだけでなく、現地語研修、相談ルート、拒絶・エスカレーション手順を整える。
Monitoring and review 監査、サンプルチェック、第三者更新審査、違反兆候・制度変更を踏まえルールを見直す。

英国SFOも2025年11月に企業コンプライアンスプログラム評価のガイダンスを公表し、Section 7のadequate proceduresを評価する場面を明示しています。規程の存在ではなく、問題発生時点で実際に機能していたかを説明できることが重要です。

5 高リスク支払は「金額」ではなく相手・目的・タイミングで見る

場面 典型的なリスク 実務上の確認
接待・贈答・旅行 入札・許認可・契約更新の直前、家族同伴、観光中心、過度に高額 業務目的、参加者、日程、金額、相手方規程、事前承認、証憑を確認する。
寄付・スポンサー 公務員が指定する団体、取引獲得と近接した寄付、実体不明団体 受益者・関係者、寄付目的、団体の実体、取引との関係を確認する。
代理店・コンサル料 高率の成功報酬、役務不明、現金・第三国口座、契約前払い 役務内容、報酬合理性、実質所有者、公務員関係、支払先、成果物を確認する。
通関・許認可 「早く通すため」の少額現金、領収書なし、担当者個人への支払 法定手数料か、正式な支払先か、請求根拠と領収書があるかを確認する。
採用・インターン 公務員・取引先の親族を、通常手続を外して採用 採用理由、選考基準、要求者と取引との関係、例外承認を確認する。

5-1 facilitation paymentはグループ共通の「安全例外」にしない

FCPAにはroutine governmental actionに関する限定的な例外がありますが、UKBAではfacilitation paymentの一般的な例外はなく、英国政府も違法な賄賂になり得ると明示しています。日本法にも「少額だから当然に適法」とする金額基準は置かれていません。したがって、FCPAの狭い例外をそのままグループ共通ルールへ持ち込まず、原則禁止・法定手数料は公的な窓口へ支払う・要求を受けたら記録してエスカレーションする運用が安全です。人身の安全への切迫した脅威がある場合は、まず安全確保を優先し、直後に法務へ報告して事実と支払を記録します。

6 最も重要なのは代理店・コンサルタント等の第三者管理

海外贈収賄では、企業の役職員が直接現金を渡すより、販売代理店、コンサルタント、通関業者、紹介者、JVパートナー、ロビイスト等の第三者を介した支払が問題になることがあります。日本の経済産業省も外国公務員への利益供与について第三者を通じた支払を含めて注意喚起しており、FCPA・UKBAでも第三者・associated personの管理は重要論点です。

6-1 契約締結前のDDで最低限確認する事項

  • 法人の正式名称、所在地、登記、実質的支配者(UBO)・主要株主
  • 役員・主要担当者と政府、公務員、国有企業、政党等との関係
  • 選定理由と必要性。なぜその第三者を使うのかを営業部門に説明させる
  • 業務範囲、報酬率、成功報酬の合理性、第三者への再委託の有無
  • 支払先口座の名義・国。契約当事者と異なる個人口座・第三国口座を原則認めない
  • 制裁・犯罪・贈収賄・行政処分等の公開情報と、必要な自己申告
  • 贈収賄防止ポリシー、研修、会計・証憑管理の実施状況

6-2 第三者DDのレッドフラッグ

レッドフラッグ 対応
「政府に強い」「担当者と特別な関係がある」ことだけを売りにする 公務員関係、役務の具体性、選定理由を追加確認し、解消しなければ起用しない。
市場水準を大きく上回る成功報酬・紹介料 比較資料、計算根拠、成果物を確認し、報酬条件を見直す。
現金、個人口座、第三国口座、複数口座への分割を要求 原則停止し、合理的・合法的理由が確認できなければ支払わない。
請求書が「consulting」「marketing」等だけで役務が不明 契約上の業務、実施日、担当者、成果物、費用内訳を求める。
DD質問への回答や契約上の監査・贈賄条項を拒む 起用・更新を保留し、代替先を検討する。

第三者DDは契約締結前の一回で終わらせません。政府との接点、株主・役員、報酬、業務範囲、リスク国等が変われば再審査し、一定期間ごとの更新確認も行います。

7 契約・支払承認・会計記録を一本の統制にする

贈賄禁止条項は重要ですが、それだけでは不十分です。契約で禁止している一方、営業部門が役務不明の請求書を承認し、経理がそのまま支払えるのであれば、統制は機能しません。第三者契約、支払申請、請求書、証憑、会計科目を連動させます。

統制ポイント 具体的な設計
契約 贈賄・不正利益供与の禁止、法令遵守、再委託、情報提供、帳簿保存、監査、違反時の支払停止・解除等を定める。
承認 公務員関係、成功報酬、寄付・スポンサー、高額接待等は通常支払より上位承認にする。
支払 契約当事者と口座名義を照合し、現金・第三国口座・分割請求等を例外扱いする。
証憑 誰に、何の目的で、何を提供したかが後から再現できる資料を残す。
会計 実態に合う科目・説明で計上し、「雑費」「営業協力費」等で不透明な支出を埋没させない。

実務上のポイント

営業・法務・コンプライアンス・経理を別々に管理すると、各部門では適正に見える支出が全体として危険になることがあります。「契約締結」「支払承認」「会計計上」を同じ案件IDや第三者IDで追跡できるようにすると、モニタリングと内部調査がしやすくなります。

8 公務員から支払を要求されたときの「拒絶・停止・報告」を決めておく

現場社員が最も困るのは、税関、許認可、検査、公立病院、国有企業等で「この場で払わないと進まない」と要求された場面です。規程に「贈賄禁止」とだけ書くと、売上・納期との板挟みになった担当者が自己判断しやすくなります。

  • 法定手数料・公式料金であるか、根拠と正式な支払窓口を確認する
  • 公務員個人・仲介者への現金等はその場で支払わず、原則として上長・法務へ連絡する
  • 拒絶によって事業上の不利益が生じても、担当者だけの評価にしないことを経営から明示する
  • 要求者、日時、場所、金額、要求内容、同席者、拒絶結果を記録する
  • 同様の要求が反復する国・拠点では、現地弁護士、業界団体、公的窓口等も活用して対応策を見直す

経済産業省は、外国公務員等から金銭等を要求された際に提示できる「拒絶カード」としても利用できるパンフレットを公開しています。現地社員へ「断り方」まで準備しておくことは、実務的な予防策になります。

9 疑義が出たら「支払停止→証拠保全→調査→是正」の順で動く

内部通報、監査、経理確認等で不自然な支払が見つかった場合、最初から「贈賄だったか」を結論付ける必要はありません。まず将来の支払・証拠消失・報復を防ぎ、調査できる状態を確保します。

初動 主な対応
①支払・取引の暫定措置 未払金、新規発注、代理店権限等を必要な範囲で一時停止する。事業継続影響も併せて管理する。
②証拠保全 メール、チャット、契約、請求書、会計仕訳、銀行資料、端末・ログ等を保全する。現地の労働・データ保護法も確認する。
③調査体制 関係者から独立した責任者を置き、必要に応じ日本・現地弁護士、会計フォレンジック等を関与させる。
④範囲拡大 同じ第三者、国、費目、承認者、取引について横展開し、単発か構造的問題かを確認する。
⑤是正・報告判断 関係者処分、契約解除、統制改善、会計修正、当局報告・自主申告等を適用法ごとに検討する。

9-1 自主申告は「早ければ常に正解」でも「しない方がよい」でもない

米国DOJは2026年3月、企業犯罪についてDepartment-wide Corporate Enforcement and Voluntary Self-Disclosure Policyを公表しました。一定の要件の下、任意の自主申告、全面協力、適時・適切な是正等を行った企業にdeclination等の具体的な利益を示しています。もっとも、贈収賄疑義は米国以外の当局、証券規制、現地刑事法、開示義務等とも関係し得ます。事実確認が不十分なまま一国だけへ連絡するのではなく、適用法・Privilege・報告期限・並行調査を整理して判断します。

10 M&A・JVでは過去の第三者支払を引き継がない

海外企業を買収する場合やJVを組成する場合、対象会社の代理店・コンサル・政府関係取引を通常の契約DDだけで終わらせないことが重要です。FCPA Resource GuideもM&Aにおけるsuccessor liabilityと、買収前DD・買収後統合を扱っています。重大な不明支払がある場合は、価格や表明保証だけでなく、クロージング条件、特別補償、是正、第三者契約の再審査、買収後監査へ落とします。

  • 政府・国有企業向け売上の比率と主要契約
  • 代理店・コンサル・紹介者の一覧、成功報酬、現金・第三国支払
  • 接待・贈答・寄付・スポンサー・旅行費
  • 内部通報・監査指摘・当局照会・過去の調査
  • 買収後に残す第三者と、再DD・契約更新が必要な第三者の区分

クロスボーダーM&A全体の規制審査・DD設計は別途検討し、本記事では贈収賄リスクに限定して確認します。

11 贈収賄防止体制は「全社員に同じ研修」ではなくリスク別に設計する

実効的な体制は、規程、承認、第三者DD、研修、モニタリング、内部通報、調査がつながっています。特に、公務員接点が多い職種とバックオフィス社員へ同じ研修だけを行うのではなく、役割に応じて内容を変えます。

対象 重点内容
経営陣 リスク許容度、重大案件の承認、違反時の報告・調査、営業目標との衝突時の判断
営業・事業開発 接待・贈答、代理店起用、入札・国有企業、公務員からの要求、停止・相談手順
購買・外注管理 第三者DD、契約・再委託、報酬合理性、更新審査、レッドフラッグ
経理・財務 支払先、請求書、会計科目、現金・第三国口座、証憑不足、反復少額支払
海外拠点 現地語での禁止事項、拒絶方法、現地法、内部通報、緊急時の連絡先

モニタリングでは、規程違反の件数だけでなく、高リスク第三者の更新率、例外承認、役務不明請求、現金・第三国支払、寄付・スポンサー、公務員接待等を定期的にレビューします。

12 弊所の実務上の視点

海外贈収賄対応では、「禁止事項を細かく書くこと」より、現場が迷ったときに止めて相談できる仕組みの方が重要です。特に、日本本社では問題ないように見える成功報酬や接待でも、現地の公務員関係や第三者の実態を加えるとリスクが変わることがあります。

弊所では、①対象国・取引類型・政府接点を整理し、②第三者DDの深さをリスク別に分け、③贈答・接待・寄付・成功報酬等の承認基準、④契約条項、⑤支払・証憑、⑥内部通報・調査手順を一枚の運用表へ落とす方法が有用と考えます。制度ごとの条文を並べるだけではなく、営業・経理・法務が同じフローで判断できる状態にすることが重要です。

13 海外贈収賄防止チェックリスト

  • □ 海外事業に適用され得る日本法・FCPA・UKBA・現地法を整理した
  • □ 取引相手が外国公務員・国有企業等に該当し得るか確認する手順がある
  • □ 国・業種・公共調達・許認可・通関等を踏まえたリスク評価をしている
  • □ 代理店・コンサル・紹介者・JV相手の第三者DD基準がある
  • □ 第三者のUBO・公務員関係・報酬・支払口座を確認している
  • □ 高リスク第三者を定期的に再審査している
  • □ 契約に贈収賄禁止、再委託、監査、帳簿保存、解除等を定めている
  • □ 接待・贈答・旅行・寄付・スポンサーの事前承認基準がある
  • □ facilitation paymentを現場判断で支払わない手順がある
  • □ 公務員から要求された場合の拒絶・記録・報告方法が決まっている
  • □ 現金、個人口座、第三国口座、分割支払を例外管理している
  • □ 契約・請求書・成果物・支払・会計科目を紐付けて確認できる
  • □ 会計記録が実際の支払目的を正確に表している
  • □ 内部通報・監査で疑義が出た場合の支払停止・証拠保全手順がある
  • □ 海外拠点の従業員にも現地語で研修・相談ルートを提供している
  • □ M&A・JVで第三者支払・政府関係取引をDDしている
  • □ 重大事案の自主申告・当局対応を複数法域で検討する体制がある
  • □ 制度改正・事業変更に応じてポリシーとリスク評価を見直している

14 よくある質問

Q1 少額の贈答なら問題になりませんか?

金額だけでは判断できません。相手、目的、時期、頻度、取引との関係、承認・記録等を総合して確認します。公務員への支払に一律の安全金額を設定するのは危険です。

Q2 代理店が独自に支払った場合でも問題になりますか?

問題になることがあります。日本法でも第三者を通じた利益供与が問題となり、FCPA・UKBAでも代理店等の第三者管理が重要です。起用前DDと契約後のモニタリングが必要です。

Q3 FCPAは米国企業だけの法律ですか?

いいえ。issuersやdomestic concernsだけでなく、一定の外国人・外国企業についても米国内での行為等により適用が問題となります。具体的なjurisdictionは事案ごとに確認します。

Q4 日本企業が米国上場していなければFCPAの会計規制は関係ありませんか?

books and records/internal controlsはissuerを中心とする規定です。ただし、anti-bribery provisionsの適用は別に検討が必要です。また、米国法とは別に自社の会計・内部統制上の問題が生じることもあります。

Q5 UKBAのSection 7は、贈賄が一件でも起きれば必ず有罪ですか?

Section 7にはadequate proceduresの抗弁があります。問題発生時点で、企業がリスクに応じた実効的な防止手続を設けていたかが重要です。

Q6 接待・贈答はすべて禁止すべきですか?

一律禁止しか方法がないわけではありませんが、政府関係者、入札・許認可時期、高額・反復、家族同伴等は高リスクです。適用法と社内基準に基づく事前承認・記録が必要です。

Q7 通関担当者への少額の便宜支払は認められますか?

FCPAには限定的な例外がありますが、UKBAには一般的なfacilitation payment例外がありません。グループ全体では原則禁止とし、法定手数料は正式な窓口へ支払う運用が安全です。

Q8 贈収賄禁止条項を契約へ入れれば十分ですか?

十分ではありません。第三者DD、報酬合理性、支払口座、請求書、成果物、監査・更新審査まで運用する必要があります。

Q9 疑わしい支払を見つけたらすぐ当局へ自主申告すべきですか?

自動的に一つの結論にはなりません。まず事実・適用法・報告期限・Privilege・並行調査を確認し、各国の制度と自主申告の利益・リスクを踏まえて判断します。

Q10 海外子会社の現地社員にも日本本社の規程をそのまま適用すればよいですか?

グループ共通原則は必要ですが、現地法・文化・業務フローに合わせたローカライズも必要です。特に拒絶方法、相談先、接待慣行、現地語研修まで実務化します。

15 弁護士への相談を検討した方がよい場面

  • 海外代理店・コンサルタント・ロビイストを新たに起用する
  • 公務員・国有企業との取引、入札、許認可、通関が売上に重要である
  • 成功報酬、第三国口座、現金、寄付・スポンサー等の例外支払を求められた
  • 公務員から金銭・接待・採用・寄付等を要求された
  • 海外子会社・JV・買収対象で不自然な支払や会計処理が見つかった
  • FCPA・UKBAの適用可能性、米国上場・英国事業との接点を確認したい
  • 内部通報を受け、証拠保全・関係者ヒアリング・海外データ取得が必要である
  • 自主申告、当局対応、開示、第三者契約停止等を複数国で調整する必要がある

16 主要な一次資料

17 まとめ

海外贈収賄規制への対応では、FCPA・UKBA・日本法の条文を並べるだけでは足りません。適用法を確認し、公務員・国有企業との接点、第三者、接待・贈答・寄付、成功報酬、通関・許認可等の高リスク場面を特定した上で、契約、承認、支払、会計、監査、内部通報・調査を一つの仕組みにすることが重要です。

とりわけ、代理店等の第三者管理と、現場が支払を拒絶・停止して相談できる権限設計が実効性を左右します。制度改正や執行方針は変化するため、海外事業を拡大するとき、政府接点の多い新規事業へ参入するとき、重大な疑義が発生したときには、取引時点の日本法・外国法・当局方針を確認しながら対応する必要があります。

海外贈収賄・FCPA/UKBA対応をご検討の方へ

柳澤法律事務所では、海外代理店・コンサルタントの第三者DD、贈収賄防止規程・承認フロー、FCPA・UKBAを含む海外贈収賄リスク、内部通報・調査初動などについてご相談を承っています。

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