フリーランス、個人事業主、業務委託、外部パートナーといった呼称で人材を活用する企業が増えています。もっとも、契約書の表題を「業務委託契約書」としていても、実際の働き方が使用者の指揮監督下にあると評価されれば、労働基準法上の「労働者」に該当する可能性があります。逆に、労働者に該当しない真正なフリーランスであっても、2024年11月1日に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(以下「フリーランス法」といいます。)による取引条件明示、支払期日、ハラスメント対策等の規律が問題になります。
したがって、企業が確認すべきことは「雇用か業務委託か」の二択だけではありません。第一に、実態として労働基準法上の労働者に当たるか、第二に、労働者に当たらないとしてもフリーランス法その他の取引ルールを遵守しているか、第三に、契約書と日々の運用が一致しているかを分けて確認する必要があります。
本稿では、国内の一般的なフリーランス活用を前提に、労働者性の判断基準、契約・運用上の危険信号、フリーランス法の実務、SES・準委任等で生じやすい論点、労働者性が認められた場合の影響、企業が行うべき事前監査の方法を整理します。個別案件では業種、報酬体系、発注方法、就業場所、組織への組み込み方等によって評価が大きく変わるため、契約締結時だけでなく運用開始後の見直しも重要です。
1.この記事が対象とする企業・担当者・場面
- 個人事業主や一人会社に継続的に業務を委託している
- エンジニア、デザイナー、ライター、営業、コンサルタント等を業務委託で活用している
- 業務委託先に勤務時間、出社日、オンライン待機時間等を指定している
- 社員と同じチャット、朝会、評価制度、承認フローで外部人材を管理している
- 時間単価・日額・月額固定で報酬を支払っている
- フリーランス法施行後も従前の契約書・発注書をそのまま使用している
- 契約終了や更新拒絶を予定しているが、予告や理由開示の要否が分からない
- フリーランスからハラスメント、育児介護との両立、報酬減額等の相談を受けた
- SES・準委任・請負の現場で、誰が具体的な業務指示を出してよいか整理したい
- 労基署、フリーランス法の申出窓口、取引先から労働者性について指摘を受けた
2.最初に分けるべき二つの問題――「労働者性」と「フリーランス法」
実務では、「業務委託だから労働法は適用されない」「フリーランス法を守っているから雇用ではない」という整理はできません。労働者性とフリーランス法は、確認する目的が異なるからです。
| 確認事項 | 主な法令・基準 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 実態が労働者か | 労働基準法9条、昭和60年労働基準法研究会報告等 | 契約名ではなく働き方を総合評価する |
| 真正なフリーランスとの取引が適正か | フリーランス法、独占禁止法、取引適正化関係法令等 | 条件明示、支払、禁止行為、就業環境整備等を確認する |
| 現場の安全衛生が確保されているか | 労働安全衛生法・関係省令等 | 個人事業者等にも保護措置が及ぶ場面がある |
| 労災補償をどう設計するか | 労災保険特別加入制度等 | 2024年11月から対象となるフリーランスの範囲が拡大 |
企業側では、契約締結前に「労働者性チェック」と「フリーランス法チェック」を別々に行い、その後に両者を統合して契約・発注・現場運用へ落とし込むのが安全です。
3.労働基準法上の「労働者」は契約名ではなく実態で判断される
厚生労働省は、労働基準法上の労働者性について、1985年(昭和60年)の労働基準法研究会報告で整理された基準が現在も具体的な判断基準として用いられているとしています。中心となるのは「使用従属性」であり、①指揮監督下の労働であるか、②報酬に労務対償性があるかを中心に、事業者性、専属性その他の事情を補強要素として総合判断します。
したがって、「個人事業主として開業届を出している」「請求書を発行している」「業務委託契約書に署名している」「確定申告をしている」といった形式だけで労働者性が否定されるわけではありません。逆に、勤務時間の指定や会社設備の利用が一部あるだけで直ちに労働者になるわけでもありません。複数の事情を、実際の運用に即して評価する必要があります。
4.労働者性の中心①――仕事の依頼を断る自由があるか
重要な判断要素の一つが、具体的な仕事の依頼や業務従事の指示に対して、受託者側に諾否の自由があるかです。案件ごとに受注するか否かを実質的に選べるのであれば事業者性を基礎付ける事情になります。他方、契約上は自由でも、断ると次回以降の仕事を与えない、評価を下げる、固定シフトから外すなど、事実上断れない運用であれば、形式的な条項だけでは十分ではありません。
包括的な月額契約では、個別業務を「その都度拒否できるか」だけでなく、契約の目的として一定範囲の業務を引き受ける合意になっているのか、その範囲を超えた追加指示まで当然に受ける運用になっていないかを確認します。
5.労働者性の中心②――業務遂行上の指揮監督がどこまで及んでいるか
業務委託でも、成果物の仕様、納期、品質水準、セキュリティ要件、法令遵守事項を発注者が示すこと自体は通常あり得ます。問題となるのは、発注者が「何を実現するか」だけでなく、「誰が、いつ、どこで、どの順序・方法で作業するか」まで日常的・具体的に指示し、その遵守状況を社員と同様に管理している場合です。
たとえば、毎日の朝会参加を義務化し、上司に相当する者が当日のタスクを割り振り、進捗を時間単位で監視し、作業方法の変更にも事前承認を要求する運用は、単なる成果管理を超えて指揮監督性を強める方向に働きます。他方、プロジェクトの品質確保のための仕様確認や、情報セキュリティ・安全衛生のために必要な指示が直ちに労働者性を意味するわけではありません。
6.労働者性の中心③――時間・場所の拘束性
勤務場所や勤務時間の指定・管理は、指揮監督関係を判断する重要な事情です。特に「平日9時から18時まで常時オンライン」「毎週月曜から金曜まで発注者オフィスへ出社」「遅刻・欠勤に相当する連絡ルールや承認制がある」といった運用は、雇用に近い拘束性を示す可能性があります。
もっとも、顧客対応時間、施設入館可能時間、共同作業時間、会議時間、機密情報を扱う場所など、業務の性質上必要な時間・場所の指定もあります。重要なのは、指定の目的・必要性、範囲、頻度、受託者の裁量がどの程度残っているかです。
7.労働者性の中心④――代替性・再委託の実態
受託者本人でなければ業務を行えないのか、補助者や代替者を使用できるのかも判断要素です。ただし、再委託を認める条項を入れれば自動的に労働者性が否定されるわけではありません。個人の専門性・資格・秘密保持・セキュリティ上の理由から本人履行を求める契約もあり、代替性はあくまで一要素です。
実務では、契約書に「事前承諾を得れば再委託可能」と記載しながら、実際には一度も認めない、本人の休暇時に代替履行を許さず社員と同じ欠勤管理をする、といった契約と運用の乖離がないかを確認します。
8.報酬の設計――時間単価でも成果報酬でも一要素にすぎない
旧稿のように「成果報酬型にすれば労働者性を回避できる」と整理するのは適切ではありません。報酬が時間給・日給に近く、欠務時間に応じて控除され、残業に相当する追加時間に応じて増額される場合は、労務対償性を示す方向に働きます。他方、時間単価を用いる準委任契約が直ちに雇用契約になるわけでもありません。
成果物単価、プロジェクト報酬、月額固定報酬についても同様です。報酬の決め方だけで結論を出さず、受託者が自ら業務量・方法を管理し、事業者として利益・損失の可能性を負担しているか、発注者の指揮命令に従って労務を提供した対価として支払われているかを全体として見ます。
9.事業者性――設備・経費・価格決定・損益リスクを見る
労働者性を補強する要素として、受託者の事業者性も確認されます。高価な機械・器具を自ら保有しているか、必要経費を自ら負担しているか、報酬額を交渉・決定できるか、業務効率化によって利益を増やせるか、瑕疵・再作業等の事業上のリスクをどのように負担するかなどです。
会社のPCを貸与しているから労働者、自己所有PCだから非労働者、と機械的に判断することもできません。情報漏えい防止のために発注者指定端末を使用させる場合もあるため、貸与の理由と、他の判断要素を併せて評価します。
10.専属性・組織への組み込み――「社員とほぼ同じ」になっていないか
他社案件を自由に受けられるか、報酬が生活保障的な固定額になっているか、長期間にわたり一社の業務だけに従事しているか、社員名簿・組織図・人事評価制度・社内職位等に組み込まれているかも確認すべき事情です。専属性が高いことだけで労働者になるわけではありませんが、他の指揮監督性と組み合わさると評価への影響が大きくなります。
特に、外部人材に「課長」「マネージャー」等の社内職位を与え、部下社員の勤怠承認、人事評価、業務命令まで担わせる場合には、委託業務の独立性だけでなく、組織への組み込み方そのものを見直す必要があります。
11.契約書で特に確認したい条項
| 項目 | 確認ポイント | 危険な運用例 |
|---|---|---|
| 業務内容 | 成果・役務の範囲、追加業務の決定方法を特定する | 「会社の指示する一切の業務」だけで範囲が無限定 |
| 遂行方法 | 必要な仕様・品質と、受託者の裁量範囲を区別する | 社員上司が日々の作業手順まで逐一指示 |
| 時間・場所 | 必要性がある拘束と任意の目安を区別する | 固定シフト、遅刻承認、休暇承認を社員同様に運用 |
| 報酬 | 算定方法、経費、追加業務、検収、支払日を明確にする | 追加作業を無償で当然に要求する |
| 再委託・補助者 | 業務特性に応じて可否・承認条件を設計する | 条項上可能でも実際には一律禁止 |
| 兼業・競業 | 秘密保持等に必要な合理的範囲に限定する | 他社案件を全面的・長期間禁止 |
| 契約終了 | 期間、更新、中途解除、精算方法を明確にする | 即日解除を常態化し、既履行分も支払わない |
| 知財・秘密保持 | 成果物・既存知財・秘密情報を区別する | 業務と無関係な既存成果まで包括取得 |
12.「契約書を整えれば大丈夫」ではない――運用監査が重要
労働者性は実態で判断されるため、契約書が適切でも、現場運用が社員と同一化すればリスクは高まります。法務・人事が契約を作成した後、現場責任者が善意で「管理しやすいように」固定時間、休暇申請、日報、評価、朝会、承認フロー等を追加し、結果として契約上想定していた独立性が失われる例は少なくありません。
少なくとも四半期又は半期ごとに、①実際の指示系統、②時間・場所管理、③報酬・追加作業、④他社業務の可否、⑤社員制度の準用状況、⑥契約更新・終了の実務を確認し、契約と運用のずれを修正することが有効です。
13.安全衛生上の指示をためらわない――2025年の厚労省整理
業務委託先に安全上の指示を出すと労働者性が認められるのではないか、と懸念して必要な指示まで控えるのは適切ではありません。厚生労働省は2025年3月、安全衛生確保の観点から注文者・事業者等が行う必要な指示と、労働基準法上の労働者性やいわゆる偽装請負との関係について留意事項を公表しています。
危険箇所への立入禁止、退避、安全装置の使用等、法令又は安全確保のために必要な指示は、その目的と必要性を明確にして実施すべきです。「指示をしないこと」が独立性を守る方法ではありません。安全上の指示と、日常の業務遂行方法への指揮命令を区別して設計することが重要です。
14.フリーランス法の対象を最初に判定する
フリーランス法では、業務委託の相手方である事業者のうち、従業員を使用しない個人事業者等を中心に「特定受託事業者」として保護します。発注側の従業員使用の有無、委託期間、取引内容によって義務の範囲が変わります。企業は取引開始時に、受託者が法の対象となるかを確認し、その記録を残す運用にしておく必要があります。
なお、フリーランス法の対象確認をしていること自体が、労働基準法上の労働者性を否定する根拠になるわけではありません。労働者性は別途、実際の働き方に基づいて判断します。
15.フリーランス法の義務は「発注者の属性」と「委託期間」で変わる
| 発注者・委託期間 | 主な義務・禁止 |
|---|---|
| 従業員を使用しない発注事業者 | 取引条件の明示 |
| 従業員を使用する発注事業者/1か月未満 | 取引条件明示、期日内支払、募集情報の的確表示、ハラスメント対策 |
| 従業員を使用する発注事業者/1か月以上6か月未満 | 上記に加え、受領拒否・減額・返品・買いたたき等の7つの禁止行為 |
| 従業員を使用する発注事業者/6か月以上 | 上記に加え、育児介護等との両立への配慮、中途解除等の30日前予告・理由開示等 |
委託期間の数え方や契約更新・継続取引の扱いは個別の契約関係によって検討が必要です。単に契約書を1か月未満ずつ更新すれば長期委託に関する規律を回避できる、と考えるべきではありません。
16.取引条件は「契約書がある」だけでは足りない
フリーランスに業務委託をした場合、取引条件は直ちに書面又は電磁的方法で明示する必要があります。公正取引委員会の案内では、発注者・フリーランスの名称、委託日、給付内容、受領・役務提供の期日と場所、検査完了期日(検査をする場合)、報酬額・支払期日、金銭以外の支払方法に関する事項(該当する場合)等が明示事項とされています。
基本契約書だけでは、個別案件の業務内容、納期、場所、報酬、支払期日等が確定しないことが多いため、個別契約、発注書、メール等を組み合わせて必要事項が漏れなく明示される運用にします。未定事項がある場合も、未定である理由や決定予定を示し、確定後に補充明示する対応が必要です。
17.支払期日は「請求書が来てから」ではなく受領日基準で管理する
一定の発注事業者には、給付を受領した日等から60日以内のできる限り短い期間内で支払期日を定め、期日までに報酬を支払う義務があります。請求書が届いていないことを理由に当然に支払期日を後ろ倒しできるわけではありません。
また、再委託について一定の要件を満たす場合には、元委託業務の支払期日から30日以内のできる限り短い期間内で支払期日を設定できる例外があります。経理部門だけでなく、発注部署が「受領日・役務提供日」「検収」「請求書発行」「支払日」の各基準を区別して管理することが重要です。
18.1か月以上の委託で問題となる「7つの禁止行為」
従業員を使用する発注事業者がフリーランスに1か月以上の業務委託をする場合、受領拒否、報酬減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しが禁止されます。
実務で特に注意したいのは、仕様追加や修正回数の増加を「この程度はサービス」と扱う運用です。フリーランスに責任がないのに、追加費用を負担せず大幅なやり直しや追加作業を求めれば、契約上の紛争だけでなくフリーランス法上の問題となり得ます。追加業務の発生条件、見積り、承認権限、報酬変更手続をあらかじめ決めておくことが有効です。
19.募集情報・ハラスメント対策は短期委託でも確認する
従業員を使用する発注事業者には、フリーランス募集情報について虚偽表示や誤解を生じさせる表示を避け、正確かつ最新の内容に保つ義務があります。求人広告と同様の感覚で「最大報酬」だけを大きく表示し、実際の条件を分かりにくくする運用は避けるべきです。
また、ハラスメントによりフリーランスの就業環境が害されないよう、方針の明確化・周知、相談体制、事後対応等の措置が必要です。社員向けハラスメント窓口がある企業では、フリーランスからの相談も受けられるか、外部窓口を含め対象範囲を明確にして周知することが実務的です。相談したことを理由とする契約上の不利益取扱いを避ける運用も必要です。
20.6か月以上の委託――育児介護配慮と中途解除等の30日前予告
6か月以上の継続的業務委託では、フリーランスから妊娠・出産・育児・介護との両立について申出があった場合、必要な配慮を行う義務が問題になります。6か月未満でも配慮するよう努めることとされています。配慮は、申出内容を把握し、可能な選択肢を検討し、実施内容又は実施できない理由を説明するプロセスとして運用することが重要です。
また、6か月以上の業務委託に関する契約を中途解除又は不更新とする場合、原則として少なくとも30日前までの予告が必要となり、フリーランスから理由の開示を求められた場合には遅滞なく開示する義務が問題になります。法令上の例外もあるため、解除を即日実施する前に要件を確認すべきです。
21.2026年改定ガイドライン――取引法令との重なりも確認する
厚生労働省は、公正取引委員会・中小企業庁との連名による「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を2026年1月1日付けで改定し、同年3月に掲載しています。改定では、取引適正化関係法令の改正内容が反映されています。
そのため、フリーランス法だけを単独でチェックするのではなく、取引の規模・内容に応じて独占禁止法や中小受託取引に関する法令等との重なりも確認する必要があります。社内の発注ルールを「フリーランス用」「外注用」と別々に作るより、発注先属性と取引条件に応じて適用法令を判定する共通フローを作る方が漏れを防ぎやすくなります。
22.フリーランスの安全衛生と労災――「労働者でないから何もしない」は危険
2025年4月から、危険箇所で作業する一人親方等や同じ場所で作業する労働者以外の者に対しても、退避や立入禁止等の保護措置を行う義務が拡充されています。また、2025年公布の労働安全衛生法改正では、労働者と同じ場所で働く個人事業者等を保護の対象・義務の主体として位置付ける改正が進められています。
労災保険についても、2024年11月1日から、企業等から業務委託を受けるフリーランスについて、業種・職種を問わず特別加入できる範囲が拡大されています。発注者が当然に保険料を負担する制度という意味ではありませんが、危険を伴う業務では、加入状況や事故時の連絡・報告体制を契約時に確認することが望まれます。
23.SES・準委任・請負で注意する「誰が指示するのか」
エンジニア等の外部人材では、「準委任契約だから指揮命令できる」「SESだから派遣ではない」といった名称だけの理解がトラブルの原因になります。請負・準委任の受託者が個人である場合には労働者性が問題になり、別会社の労働者を受け入れる場合には労働者派遣・偽装請負の論点も生じます。
プロジェクト管理上必要な連絡、成果物の仕様、納期、セキュリティ要件等と、作業者個人に対する日々の具体的な業務命令を区別し、誰がどの範囲の指示を出すのかを契約書・体制図・現場ルールで一致させることが重要です。現場担当者が契約類型を理解せず、社員と同じ指示を始めると、契約書だけではリスクを抑えられません。
24.労働者性が認められた場合に企業へ生じ得る影響
実態が労働者と判断された場合には、労働基準法、最低賃金法、労働契約法その他の労働関係法令が問題となります。具体的には、未払賃金・割増賃金、年次有給休暇、休業、解雇・雇止め、労災等の論点が生じ得ます。
雇用保険・社会保険については、それぞれの法令上の加入要件を別途確認する必要があり、「労働者性が認められたら必ず全制度が同じ結論になる」と一括りにはできません。ただし、長期間・多数の外部人材について分類を誤っていた場合には、賃金・保険・税務・過去契約の見直しが同時に必要になる可能性があります。
また、労働基準法上の労働者性と労働組合法上の労働者性は判断枠組みが同一ではありません。労働基準法上の労働者に該当しないからといって、団体交渉等に関する労働組合法上の問題まで当然に消えるわけではない点にも注意が必要です。
25.企業が行うべきフリーランス活用の実務フロー
① 発注前:業務を「人の稼働」で確保したいのか、「成果・専門サービス」を外部委託したいのかを整理する
② 労働者性チェック:諾否の自由、指揮監督、拘束性、代替性、報酬、事業者性、専属性を確認する
③ フリーランス法チェック:受託者・発注者の属性、委託期間、適用義務を確認する
④ 契約設計:業務範囲、遂行裁量、報酬、追加作業、知財、秘密保持、終了条件等を明文化する
⑤ 個別発注:委託日、内容、期日、場所、報酬・支払期日等を漏れなく明示する
⑥ 現場説明:担当者へ「指示できる事項/受託者の裁量に委ねる事項」を共有する
⑦ 運用監査:固定シフト、休暇承認、無償追加作業、社員制度への組み込み等が発生していないか確認する
⑧ 契約変更・終了:追加発注、報酬変更、更新、不更新、中途解除の手続を法令と契約の双方から確認する
⑨ 紛争兆候:労働者性、未払報酬、ハラスメント等の主張が出たら、チャット・勤怠・発注履歴等を保全する
26.労働者性セルフチェック
- 個別の仕事を断ると不利益がある、又は事実上断れない
- 発注者が作業方法・順序・担当業務を日常的に細かく指示している
- 出退勤、遅刻、休暇等を社員と同じ仕組みで承認している
- 毎日一定時間の待機・オンライン接続を義務付けている
- 受託者本人以外による履行を一切認めず、その理由も業務特性では説明できない
- 報酬が実質的に時間給・日給で、欠務控除や残業相当の加算をしている
- 価格交渉の余地がほとんどなく、一方的に報酬を決定している
- 他社案件を広く禁止し、実質的に一社専属になっている
- 社員向けの職位・人事評価・服務規律をそのまま適用している
- 契約書上の裁量と、現場で実際に認めている裁量が一致していない
チェック数だけで労働者性を決めることはできませんが、複数項目に該当する場合には、契約書だけでなく実際の指示・連絡履歴まで含めて専門家による確認を行うことを推奨します。
27.よくある質問(FAQ)
Q1.業務委託契約書があれば、労働者と判断されることはありませんか?
いいえ。契約の名称ではなく、指揮監督、拘束性、報酬、事業者性等の実態を総合して判断されます。
Q2.時間単価で報酬を払うと必ず労働者になりますか?
必ずではありません。時間単価は労務対償性を検討する一事情ですが、他の要素と併せた総合判断です。
Q3.成果報酬にすれば労働者性を否定できますか?
できません。成果報酬は一事情にすぎず、実際に強い指揮命令や時間拘束があれば別途評価されます。
Q4.フリーランスに出社を求めてはいけませんか?
一律に禁止されるわけではありません。業務上の必要性、頻度、時間拘束の程度、他の裁量の有無を含めて判断します。
Q5.セキュリティ上、会社PCの利用を必須にすると問題ですか?
それだけで労働者性が決まるわけではありません。指定理由を明確にし、業務遂行方法への不要な指揮命令と区別します。
Q6.フリーランス法の取引条件明示は基本契約書だけで足りますか?
基本契約書に個別案件の必要事項がすべて入っていない場合、個別契約・発注書・メール等で補う必要があります。
Q7.フリーランスから請求書が届かなければ支払を待てますか?
法定の支払期日管理は受領日等を基準に行うため、請求書未提出だけで当然に遅らせられるとは限りません。
Q8.短期の委託ならハラスメント対策は不要ですか?
発注者の属性によっては短期でもハラスメント対策の体制整備義務が問題になります。委託期間だけで判断しないことが重要です。
Q9.6か月以上の契約を終了するときは必ず30日前予告が必要ですか?
原則として30日前予告等が問題になりますが、法令上の例外があります。解除理由・契約内容と併せて個別確認が必要です。
Q10.フリーランスは労災保険に入れますか?
2024年11月1日から、企業等から業務委託を受けるフリーランスについて特別加入の対象範囲が拡大されています。
Q11.安全上の指示を出すと労働者と認められますか?
必要な安全衛生上の指示だけで直ちに労働者性が決まるものではありません。安全指示と日常の業務遂行上の指揮命令を区別します。
Q12.社員と同じSlackやTeamsを使わせると労働者になりますか?
ツール共通化だけで決まりません。利用目的、応答義務、常時待機の有無、指示系統等を含めて判断します。
Q13.契約終了後に労働者だったと請求された場合、何を保全すべきですか?
契約書、発注書、請求書、チャット、メール、会議記録、稼働記録、評価資料、支払資料、指示系統が分かる資料等を改変せず保全します。
Q14.どの時点で弁護士へ相談するのがよいですか?
多数の外部人材を継続利用する場合は、契約締結前と運用開始後の双方で確認するのが有効です。労働者性を主張された後は、回答前に証拠保全を優先します。
28.裁判例を読むときの視点
労働者性をめぐる裁判例では、「業務委託」「請負」「フリーランス」という契約名称だけで結論を出さず、個別具体的な働き方を複数の要素から評価します。そのため、自社に近い裁判例を探すときは、職種名の一致だけでなく、①仕事を断れたか、②作業方法の裁量、③時間・場所拘束、④報酬体系、⑤設備負担、⑥専属性、⑦組織への組み込みといった事実関係がどこまで似ているかを見る必要があります。
判例を引用する際も、「この職種なら労働者」「この条項があれば非労働者」と一般化するのではなく、裁判所がどの事実を重視したのかを分解し、自社の運用改善に落とし込むことが重要です。
28-1.裁判例:法人名義の請求や消費税加算があっても、実態から労働者性が認められることがある
大阪地方裁判所令和5年10月26日判決(令和3年(ワ)第963号、令和4年(ワ)第2928号)は、被告会社が、原告本人ではなく原告が代表を務める会社との業務委託関係にすぎないと主張した事案です。報酬も法人名義の口座に支払われ、請求書には消費税が加算され、原告側も租税公課について事業者としての処理をしていました。
しかし裁判所は、こうした形式だけではなく実際の働き方を検討しました。原告は個別に割り当てられた業務を拒否できず、名古屋・広島への赴任を含め勤務場所について指示を受け、被告会社の営業部長として予定表や勤怠管理システムを使用し、就業規則違反を理由とする懲戒処分も受けていました。また、本人に代わる外部の補助者を用いることはできず、報酬も一定期間の労務提供そのものに対する対価と評価され、他社業務に従事する余地も乏しい状況でした。
これらを踏まえ、裁判所は、諾否の自由がなく、業務遂行上の指揮監督、勤務場所・時間の拘束、労務提供の非代替性、報酬の労務対償性、専属性が認められるとして、原告と被告会社との間の合意を労働契約と判断しました。法人名義で請求書を発行していることや、消費税を加算していること、税務上事業者として処理していることだけでは、労働者性を否定する決め手にはならないことを示す事例です。
28-2.裁判例:固定報酬や本人履行があっても、具体的な指揮監督が弱ければ労働者性が否定されることがある
東京地方裁判所令和5年4月17日判決(令和4年(行ウ)第184号、同第468号)は、配管工事会社の資材倉庫管理業務に長年従事していた者について、労災保険法上の前提となる労働基準法9条の労働者性が争われた事案です。契約上、本人以外への再委託は禁止され、一定の時間・場所で業務を行い、月額固定報酬から欠勤分が控除されるなど、労働者性をうかがわせる事情もありました。
もっとも裁判所は、倉庫管理業務の具体的な進め方について個別具体的な指示を受けず、会社への詳細な報告も求められていなかったこと、従業員と異なり特段の労働時間管理や配置転換がなく、自席やパソコンも与えられていなかったこと、報酬が従業員より高額で、屋号を用いて報酬を請求し、消費税相当額の加算や個人事業主としての確定申告が行われていたことなどを重視しました。
その結果、業務の性質上生じる一定の時間・場所の拘束や本人履行の要請があっても、具体的な指揮命令や労務管理の程度は弱く、業務遂行には相当程度の裁量があったとして、労働者性を否定しました。
この2件を比較すると、固定報酬、専属性、本人履行、消費税、請求書といった個々の事情だけで結論を出すのではなく、日々の業務で誰がどこまで具体的に指示し、時間・場所・休暇・評価等をどの程度管理しているかを中心に、複数の事情を総合して判断することが重要だと分かります。
29.弊所がフリーランス活用の相談で確認するポイント
弊所では、業務委託契約書の文言だけでなく、実際の発注・指示・報酬・稼働管理の方法まで確認します。特に、契約書では受託者に裁量があることになっている一方、現場では社員と同じ勤怠・評価・承認が行われているケースでは、契約修正だけでなく運用ルールの変更が必要です。
また、フリーランス法の施行後は、取引条件明示、支払期日、追加作業、ハラスメント窓口、育児介護配慮、中途解除等を含め、法務・人事・経理・現場のルールを横断して設計する必要があります。多数のフリーランスを利用する企業では、個別契約のレビューだけでなく、共通の発注フローとチェックリストを整備する方が再発防止につながります。
30.まとめ――「契約」と「運用」を同時に設計する
フリーランス活用のリスクは、業務委託契約書の有無だけでは管理できません。労働者性は実態を総合して判断されるため、発注者の指揮監督、時間・場所の拘束、報酬、事業者性、専属性等を継続的に確認する必要があります。
同時に、真正なフリーランスとの取引であっても、フリーランス法による取引条件明示、支払期日、禁止行為、募集情報、ハラスメント、育児介護配慮、中途解除等の規律があります。さらに安全衛生や労災保険特別加入等、近年の制度改正も踏まえる必要があります。
実務上は、「雇用にしたくないから業務委託にする」のではなく、業務の性質上どの契約類型が適切かを先に決め、その契約類型に合う指示・報酬・管理方法を現場まで徹底することが重要です。契約書と運用のどちらか一方だけを整えるのではなく、両方を同時に設計してください。
31.主要な裁判例・一次資料・公式情報
- 大阪地方裁判所令和5年10月26日判決(令和3年(ワ)第963号、令和4年(ワ)第2928号)
- 東京地方裁判所令和5年4月17日判決(令和4年(行ウ)第184号、令和4年(行ウ)第468号)
- 厚生労働省「フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ」
- 公正取引委員会「フリーランス法特設サイト」
- 厚生労働省「労働者とは」
- 厚生労働省「フリーランス・事業者間取引適正化等法に基づく就業環境整備のポイント」
- 厚生労働省「個人事業者等の安全衛生対策について」
- 厚生労働省「令和6年11月1日から『フリーランス』が労災保険の『特別加入』の対象となりました」