フランチャイズ

2026年10月27日

FC加盟店から売上予測の説明義務違反を主張されたら

本部の損害賠償リスクと対応方法

フランチャイズ加盟店から「本部が示した売上予測に達しなかった」「加盟時の説明が不正確だった」として加盟金の返還や損害賠償を請求されても、予測と実績の差だけで本部の法的責任が当然に認められるわけではありません。問題となるのは、契約締結前に本部がどのような数字・前提・リスクを示したか、その根拠が当時合理的だったか、加盟者の判断にどう影響したか、請求された損害とどのような因果関係があるかです。

本部が最初に行うべきことは、予測数値の正当性を感覚的に弁明することではなく、当時の資料と説明の記録を保全し、加盟店の主張を項目別に整理することです。本稿では、責任の判断枠組みを確認したうえで、紛争発生後の初動、証拠、反論、返還・損害賠償請求への対応、和解・訴訟、再発防止までを本部側の実務として解説します。

1.売上予測が未達でも、本部が必ず賠償するわけではない

売上予測や収益シミュレーションは、将来の需要、競合状況、費用、運営体制などに関する前提に基づく見通しです。予測時点で合理的に作成されていても、開業後の市場変化、店舗運営、採用状況等によって実績が下振れすることはあります。このため「予測月商を下回った」という結果だけから、直ちに説明義務違反や損害賠償義務が成立するとはいえません。

他方、予測に合理的な根拠がなかった場合、重要な不利情報を伏せた場合、過度に楽観的な数字を確実な見通しのように伝えた場合などは、加盟希望者の判断を誤らせたとして責任が問題となり得ます。「収益は保証しない」と契約書に記載していても、誤った重要情報を提供した事実が当然に消えるわけではありません。

本部側の評価では、少なくとも①当時提示した情報、②作成時点の合理的根拠、③加盟希望者への説明・理解、④開業後の事情、⑤請求損害と因果関係、の五つを分けて検討します。売上の差を計算するだけで結論を出さないことが重要です。

2.請求や抗議を受けた本部が、まず行うべき初動対応

2-1.請求内容・期限・対象契約を固定する

内容証明、メール、チャット、代理人からの通知等を受けたら、送受信日時、求められている金額、返金・解除・取消し・損害賠償のどれが主張されているか、回答期限を整理します。対象店舗、契約当事者、契約日、開業日、更新履歴、加盟金・ロイヤルティの支払実績も確認します。複数店舗の契約や、法人加盟と代表者個人の主張が混在している場合は、請求主体と損害の帰属を混同しないようにします。

2-2.数値・説明の原本を編集せずに保全する

収益モデルは更新されやすく、現行版だけを保存しても加盟当時の説明を再現できません。募集LPの当時の表示、パンフレット、説明会スライド、提案書、試算表、立地調査、既存店舗データ、加盟希望者への送付履歴、質疑応答、録音・録画、契約書・開示書面の各版を保全します。Excel等の試算表は数式・参照セル・作成日時・変更履歴が残る形で複製し、原本を上書きしないでください。

営業担当者の個人メール・チャット、代理店による説明、外部広告制作会社が使用した数値など、通常の契約フォルダにない資料も対象です。個人情報や他店舗の営業秘密を含む資料は、適法なアクセス権限と保存範囲を管理しながら収集します。

2-3.事実調査と加盟店への回答を分ける

担当者が独断で「予測が誤っていました」「当社には一切責任がありません」と断言することは避け、事実の確認中であることと回答予定を必要に応じて伝えます。一方、証拠の削除、後付けの根拠資料作成、担当者間での口裏合わせは行ってはいけません。現に営業中の加盟店に対しては、契約上の支援義務を維持し、紛争対応を理由に合理的根拠なく供給や支援を停止しないよう注意します。

3.まず「何を売上予測として伝えたのか」を特定する

同じ「売上の数字」でも、店舗固有の将来予測、既存店の実績平均、モデル収益、損益分岐点、過去最高売上、投資回収期間の試算では、意味が異なります。紛争後に本部が「単なる参考値だった」と説明しても、加盟希望者に実際は特定店舗の予測として受け取られる説明をしていれば、その表示の仕方が問題となります。

提示した情報 本部が確認する事項 説明上の重要な区別
出店予定地の売上予測 立地調査、商圏・交通量、競合、業態、算定式、作成時点の情報 特定候補地の将来見通しであり、不確実性と前提がある
既存加盟店の実績・平均 対象店舗、直営店との区別、年度、閉店店・赤字店の扱い 過去実績は新規店舗の売上保証ではない
モデル収益・収支シミュレーション 標準店舗の面積・客数・人員・賃料・費用範囲 仮定のモデルと当該店舗の予測を明確に区別する
損益分岐点・必要売上 固定費、変動費、ロイヤルティ、費用・粗利率の算定 採算が取れるために必要な売上と、実際に見込まれる売上は別
投資回収期間・オーナー所得 初期投資・借入返済・減価償却・オーナー報酬の扱い 回収期間や所得は売上よりも多くの前提に左右される

公正取引委員会のFCガイドラインは、予想売上げ・予想収益を示す場合、類似した環境の既存店舗の実績等の根拠ある事実と合理的な算定方法に基づき、その根拠・方法を示す必要があるとしています。また、既存店平均等から作成したモデル収益については、出店予定店舗の予測値ではないことを加盟希望者に理解させるよう求めています。

4.法的責任は、行政上の問題と民事上の請求を分けて検討する

4-1.公取委ガイドラインと独占禁止法

公正取引委員会「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」は、加盟者募集で予測収益等を示す場合の根拠・算定方法の説明を重視し、重要事項の不開示や虚偽・誇大な説明によって加盟希望者を実態より著しく優良・有利と誤認させ、不当に取引へ誘引する場合には、独占禁止法上の「ぎまん的顧客誘引」が問題となり得ると整理しています。もっとも、独占禁止法上の評価と、特定加盟店の民事上の損害賠償請求が認められるかは、法的要件を別々に検討する必要があります。

4-2.中小小売商業振興法の法定開示が問題になる場合

中小小売商業振興法第11条の事前開示・説明義務は、同法の「特定連鎖化事業」に該当する本部が対象です。法定の開示項目には、立地条件が類似する加盟店舗の直近3事業年度の収支に関する事項も含まれます。ただし、法定開示資料の過去実績と将来予測は同一ではなく、交付・説明義務の違反があることと、加盟金全額の返還や営業損失全額の賠償が当然に認められることも同義ではありません。対象事業に該当するか、具体的な欠落・誤記が何かを先に確認します。

4-3.説明義務違反・不法行為・債務不履行・取消しの違い

契約締結前の勧誘において、事実に関する不正確な情報の提供や重要情報の不開示が問題となる場合、交渉段階の信義則上の情報提供義務と、民法第709条の不法行為責任が検討されます。契約内容や個別の約束から情報提供等の義務が成立していたと主張される場合は、民法第415条の債務不履行責任も別途検討します。ただし、これらの請求原因は、適用場面や必要な要件が必ずしも同じではありません。

「虚偽の説明によって契約した」として詐欺取消し(民法第96条)や、重要な前提事情について錯誤取消し(同第95条)が主張されることもあります。しかし、将来の売上への期待が外れたというだけで当然に取消しが認められるわけではありません。取消しが有効となる場合は、契約の効力と原状回復の範囲を、損害賠償請求とは区別して検討する必要があります。

5.本部が防御・説明するための主要な判断要素

5-1.予測当時の資料と計算方法に合理性があったか

まず予測値を提示した時点に戻り、どのデータを使い、どう計算したかを再現します。例えば立地、商圏人口、交通・歩行量、競合店、駐車場、席数、営業時間、客単価、回転率、季節変動、採用人員、賃料、人件費、原価、ロイヤルティ等の前提です。実績との乖離が大きい場合でも、後から判明した事実のみで当時の合理性を判断せず、当時把握できた情報と、合理的に予見できたリスクを区別します。

反対に、都合のよい上位店だけを比較対象にした、閉店店や低収益店を理由なく除外した、既知の競合出店計画や立地調査上の不利な数値を説明しなかった、といった事情は注意を要します。選定条件や除外理由を後から整えるのではなく、当時の元データと決裁・説明の記録を確認します。

5-2.口頭説明・営業トーク・契約書の内容が一致するか

契約書が「収益を保証しない」としていても、担当者が面談で「この立地なら必ず月商○○円になる」などと述べていたと主張される場合、書面と実際の勧誘経過を一体として確認します。直営店見学時の説明、営業代理店や紹介者の発言、説明会の質疑、メールでの個別回答も重要です。誰が、いつ、どの版の資料を示し、質問にどう答えたかを時系列に整理します。

5-3.加盟者の投資判断と、開業後の別要因を切り分ける

加盟者がどの説明を重視して契約締結を決めたか、独自に立地や費用を検討したか、他の選択肢を比較したか等を確認します。ただし、加盟者が独立事業者であるという事実だけで、本部の不正確な情報提供に関する責任がなくなるわけではありません。開業後の実績についても、競争環境、物価、人手不足、営業時間、スタッフ定着、立地の変化、加盟者の運営判断、本部支援の履行状況などを客観資料で確かめます。

本部の指導に従ったことが損失拡大の原因であるとの主張もあり得るため、SV訪問記録、運営改善提案、販促施策、改善実施状況は双方の責任範囲の検討に役立ちます。単に加盟者の努力不足を指摘するのではなく、利益率や売上推移の変動要因を説明できることが重要です。

5-4.裁判例でみる説明義務違反の判断と損害賠償リスク

裁判例では、売上予測が未達になった結果だけでなく、勧誘時に本部が把握していた情報、提供した数値の根拠、説明の内容、加盟者の判断、損害との結び付きが検討されています。ここでは、本部側の責任が否定された事例と、責任が認められた事例を対比します。

5-4-1.実績資料・留保説明があり情報提供義務違反が否定された事例

東京地方裁判所令和4年11月17日判決(令和元年(ワ)第24553号、令和2年(ワ)第4770号)は、居酒屋FCの加盟店が売上予測の情報提供義務違反を主張した事案です。本部は初期投資回収モデルに収益を保証しない旨を付したほか、対象店舗の過去の売上実績と、直営期間の最新実績を加盟希望者へ提供していました。モデル事業計画書の数値も当時の過去実績から大きく乖離するものではなく、断定的な収益保証の説明があったとの立証も十分ではありませんでした。裁判所は、こうした事実を踏まえて情報提供義務違反を否定しました。

実務上、非保証条項だけで責任を免れた事例と理解するのは適切ではありません。重要なのは、対象店舗に関する実績資料の提供、モデルの前提と実績の整合、保証と受け取られない説明、口頭説明の立証状況という複数の事情です。

5-4-2.本部が把握した不利な立地調査結果を開示しなかった事例

福岡高等裁判所平成18年1月31日判決(平成17年(ネ)第334号)は、コンビニエンスストアFCへの加盟に際し、内部の立地評価による売上予測が損益分岐点を大きく下回っていたにもかかわらず、その不利な数値を加盟希望者に示さず、近隣店舗の好調な実績等によって採算を得られるかのように説明したことが問題となった事案です。裁判所は本部の情報提供義務違反を認め、加盟者側にも立地調査結果の開示を求めるなどの検討が不足していたとして25%の過失相殺を行いました。

本部に有利な近隣店舗の実績を示していたとしても、対象立地について本部自身が把握する不利な資料を伏せてよいことにはなりません。訴訟では、社内の立地評価書、損益分岐点の試算、加盟希望者に渡した説明資料、その差異と説明経緯が重要です。

5-4-3.情報提供義務違反と、賠償対象となる営業損失を区別した事例

名古屋高等裁判所金沢支部平成17年6月22日判決(平成14年(ネ)第148号)は、コンビニエンスストアFCの売上予測等について客観的・的確な情報を提供すべき義務の違反を認めました。一方で、加盟店が開業後に被った営業損失がすべて直ちに説明義務違反と因果関係を有するとはせず、店舗の立地による売上への影響、本部による営業上の制約、加盟者の実際の営業努力、損失発生の期間等を具体的に検討しました。

同判決は、本部に対する損害賠償として797万円を認める一方、別途争われた本部の立替金等請求も2,357万1,547円の限度で認めています。したがって、「説明義務違反があったから店舗の赤字や加盟金がすべて賠償される」「本部の契約上の請求が当然に消滅する」とは理解できません。損害の費目・期間・因果関係、双方の債権をそれぞれ検討する必要があります。

5-4-4.故意の詐欺が認定され、第一審の50%過失相殺が否定された事例

東京高等裁判所平成30年5月23日判決(平成30年(ネ)第172号)は、放置自転車回収・販売事業のパートナー制度について、既存加盟者の大半が十分な利益を上げられず、競争も存在する実情を本部関係者が知りながら、「未開拓市場である」「月70万~100万円程度の収入を得られる」などと勧誘した事案です。裁判所は、収益を生むノウハウや実態を欠くこと等を認定し、勧誘を単なる楽観的なセールストークではなく故意の詐欺に当たる共同不法行為と判断しました。

第一審の東京地裁平成29年12月21日判決(平成27年(ワ)第25799号)は情報提供義務違反を認めつつ50%の過失相殺を行っていましたが、控訴審は、故意の詐欺により加盟金等を取得した本件で加盟者の損害を減額するのは相当でないとして過失相殺を認めませんでした。加盟金・システム利用料と弁護士費用について、加盟者3名それぞれ356万6,400円、350万3,400円、343万9,500円の請求を全部認容しています。「加盟金は理由を問わず返還しない」との申込書の記載も、本件の詐欺による損害賠償責任を消滅させるものではないと判断しました。

この判断は、故意の詐欺という特に悪質な事情に基づくものです。一般の予測未達や過失による情報提供義務違反で、過失相殺が常に否定されることを意味しません。本部が過失相殺を主張する際は、加盟者の事業経験や調査不足だけでなく、勧誘担当者が何を知り、どの程度意図的に虚偽の説明をしたと評価されるかも精査する必要があります。

6.加盟店の主張・事実・証拠・法的争点を同じ表で管理する

初動で役立つのは、加盟者の主張を「正しい/間違い」と即断することではなく、主張ごとに立証資料と不足事項を特定することです。次の整理は、複数部署による調査と代理人への資料引継ぎに利用できます。

加盟店側の主張 確認すべき事実 主な証拠・資料 法的な検討点
「月商○○円と保証された」 発言者、日時、表現、保証か見込みか、当時の応答 説明会動画、営業メール、面談記録、提案書、契約書 説明内容の認定、誤認、非保証条項の位置付け
「モデル収益を実店舗予測だと説明された」 モデルの対象・母集団、資料上の見出し、注意説明の方法 モデル原本、集計元データ、送付版、質疑記録 予測とモデルの混同、情報の正確性
「低売上店や不利な立地情報を隠した」 本部がいつ何を把握していたか、比較対象の選定理由 店舗実績、立地報告、競合情報、社内稟議、除外基準 重要情報の不開示、算定根拠の合理性
「費用が少なく表示された」 人件費、賃料、廃棄ロス、広告費、システム料の扱い 収支シートの数式、費用資料、募集・契約資料 営業利益とオーナー所得の区別、説明の適切性
「予測に達しないので加盟金を返せ」 請求の法的根拠、取消し・解除等の主張、支払・履行の経過 契約・開示書面、入金、研修・支援履歴 返還請求と損害賠償請求の区別
「開業後の赤字を全額賠償せよ」 損失の対象期間、他の原因、更新・経営判断、残存資産 POS、損益計算書、採用・仕入・販促記録、更新資料 因果関係、損害範囲、過失相殺・二重計上
「本部が十分に支援しなかった」 実際に約束した指導、行った支援、店舗側の対応 SV記録、マニュアル、研修計画、改善指導、メール 予測時の説明と契約後の支援義務の区別

7.加盟金返還・損害賠償額は、項目別に精査する

加盟店側から「加盟金、開業費用、累積赤字、将来利益の逸失額をすべて支払え」と請求されることがあります。しかし、請求額を単純に合計することはできません。契約の取消し・解除・返還規定に基づく請求なのか、説明義務違反による損害賠償なのかを分け、各費目について実際の支出、回収済み部分、因果関係、重複計上を検討します。

  • 加盟金・保証金:契約上の金銭の性質、返還規定、支援の履行、契約取消し等の請求原因を区別する。保証金の精算と加盟金返還を同一視しない。
  • 物件・内装・設備・開業費:実際の支出と、売却・転用可能な設備・在庫・保証金返還など残存価値を区分する。賃借人・支払人が誰かも確認する。
  • 営業損失:損益計算書の赤字が、そのまま情報提供義務違反による損害となるわけではない。店舗運営・市場変化・本部側の行為など損失要因と期間を確認する。
  • 将来利益・投資回収:見込み利益を当然の損害とすることはできない。立証の内容、見通しの不確実性、請求方法との整合を検討する。
  • 借入・利息・役員報酬等:事業主体と個人の支出・収入を混同せず、実際の負担、費用計上、二重計算の有無を確認する。

仮に本部の行為に責任が認められる場合でも、加盟者側の検討・経営判断やその後の対応などによって、過失相殺や損害範囲が争点となることがあります。逆に「加盟者は独立事業者だから営業赤字は全て自己責任」と一括して否定することも適切ではありません。法的根拠と事実に即した積算が不可欠です。

損害額をめぐって過失相殺を主張する場合には、通常の説明義務違反と故意の詐欺的勧誘を区別してください。前記東京高裁平成30年5月23日判決は、第一審の50%過失相殺を否定しています。加盟者の情報収集が不十分だったという一事だけで、賠償額の減額を見込むことは危険です。

8.回答書・交渉・訴訟での実務対応

8-1.初回回答は、認否と調査事項を整理して出す

加盟店側の通知に対しては、請求対象の店舗・契約・金額を特定し、相手方の主張する説明や予測資料、損害の内訳を確認したうえで、認める事実、争いのある事実、確認中の事項を分けて回答します。証拠が揃わない段階で、法律上の責任の有無を断定する必要はありません。訴訟・調停等の手続が開始されている場合は、その期限管理と保全を優先します。

8-2.和解を検討する場合も、法的責任と事業上の解決を区別する

加盟店が営業継続を希望する場合、再度の収支見通しの説明、販促支援、追加研修、返済・ロイヤルティの調整などが解決案となることがあります。一方、退店を希望する場合は、加盟金等の精算、在庫・設備、商標撤去、競業・秘密保持、契約終了時の清算を検討します。解決金を支払うかどうかは、法的な負担の見込み、費用対効果、事業継続、他の加盟店への影響等を分けて決めます。

合意書には、対象契約・店舗、金銭の金額と支払期限、残存債務、終了又は継続する義務、清算条項、当事者の範囲を明確にします。秘密保持条項を設ける場合も、法令上必要な通報・相談等まで妨げる設計にならないよう留意します。

8-3.訴訟になった場合は「当時の判断過程」を再現できるかが鍵になる

訴訟では、予測シートの完成版だけでなく、作成時の資料、計算方法、担当者の説明、加盟希望者の質問、立地検討、契約締結までの経過が重要となります。営業資料の差替え履歴や社内での不利情報の認識も確認対象になり得ます。予測が結果的に外れた理由だけを事後的に説明するのではなく、当時の予測と説明がどのような情報に基づいて行われたのかを示せる状態にします。

9.同種の紛争を防ぐための、本部の説明・保存ルール

  • 数値の承認:予想売上・利益・回収期間を対外提示する際は、元データ、算定式、対象立地、作成者、承認者、更新日を一組で保存する。
  • 比較対象の管理:直営店と加盟店、既存店と新店、上位店と全体平均、閉店店の扱いを区別し、選定理由を残す。
  • 説明の統一:加盟開発担当者・代理店・紹介者には、口頭でも資料と異なる保証的説明をしないルールを共有する。
  • リスク情報の提供:人件費、賃料、競合、営業時間、客層、立地調査の不利要因を含め、加盟判断に重要な前提を説明する。
  • 版・交付の記録:LP、パンフレット、試算表、開示書面、契約書の版を紐づけ、誰に何をいつ渡し、質問にどう回答したかを保存する。
  • 変更時の再点検:加盟募集期間中に競合計画や人件費、ロイヤルティ等の重要条件が変化した場合、既存の説明資料の使用継続を見直す。

10.弊所の実務上の視点――「数字の根拠」と「加盟判断への影響」を別々に調べる

FC本部側で売上予測紛争に対応する際は、まず加盟者の請求内容に沿って、営業担当者・加盟開発・店舗運営・経理・法務が保有する資料を一つの時系列にまとめることが有用です。そのうえで、①説明時点の予測の合理性、②説明された条件と実際の条件の差、③加盟希望者がどの説明に依拠したか、④開業後の損失の原因と金額、を切り分けて検討します。

この順序で確認すれば、相手方の主張に対して根拠ある反論が可能か、説明の不足を認めて解決すべき部分があるか、追加資料を求めるべきかを判断しやすくなります。加盟金返還や多額の損害賠償が請求されている場合、当時の営業資料・計算シート・契約資料・店舗収支を保存した上で、回答前に法的整理を行うことをお勧めします。

11.よくある質問

Q.売上予測に達しなかった加盟店へ、本部は必ず加盟金を返還する必要がありますか?

いいえ。売上予測の未達だけで返還義務が当然に発生するわけではありません。契約上の返還条件、契約取消し・解除等の有無、説明の適切性、加盟者の請求根拠を確認する必要があります。

Q.契約書に「売上・利益を保証しない」と記載していれば安全ですか?

その条項は予測の性質を理解する上で重要ですが、それだけで全ての責任が免除されるわけではありません。提示した数字の合理性、重要事項の不開示、営業担当者の口頭説明、加盟者への説明状況などを確認します。

Q.予測値より実績が大幅に低い場合、説明義務違反が推定されますか?

実績との乖離は調査のきっかけになりますが、一定割合の乖離で当然に違反が認定されるという一般的な法定基準はありません。予測時点の合理的根拠や説明内容、開業後の事情を含めて個別に検討します。

Q.加盟店に十分な営業努力がなかった場合、損害賠償請求を拒めますか?

営業努力や開業後の経営判断は因果関係・損害額・過失相殺等に関係し得ますが、それだけで本部の勧誘時の不適切な説明が正当化されるわけではありません。双方の行為と損失発生との関係を客観資料で確認します。

Q.加盟希望者が売上予測の裏付けを調べなかった場合、必ず過失相殺できますか?

必ずしもできません。加盟希望者の調査不足が損害額の判断に影響する事例もありますが、東京高裁平成30年5月23日判決では、故意の詐欺により加盟金等を取得したという事情から過失相殺が否定されました。本部が把握していた不利情報、説明の真実性、故意の有無、加盟判断への影響を区別して評価します。

12.まとめ

フランチャイズの売上予測をめぐる紛争では、「予測を下回ったから本部が賠償する」「非保証条項があるから一切責任がない」という二者択一は適切ではありません。本部は、加盟当時に提示した数値とその根拠、説明履歴、加盟希望者の判断、開業後の要因、損害と因果関係を個別に検討する必要があります。最も重要な初動は、資料を消さずに保全し、請求と証拠を対比させ、必要な調査を行ってから回答方針を決めることです。

13.確認した主要一次資料・裁判例

13-1.参考裁判例

東京地方裁判所令和4年11月17日判決(令和元年(ワ)第24553号・令和2年(ワ)第4770号)

福岡高等裁判所平成18年1月31日判決(平成17年(ネ)第334号)

名古屋高等裁判所金沢支部平成17年6月22日判決(平成14年(ネ)第148号)

東京高等裁判所平成30年5月23日判決(平成30年(ネ)第172号。第一審:東京地方裁判所平成29年12月21日判決・平成27年(ワ)第25799号)

14.更新・監修

法令・ガイドライン・裁判例確認基準日:2026年10月27日

監修:弁護士

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